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第35回「日本の自然」写真コンテストを“読む”
審査委員 写真家 福田健太郎 氏

α Universe editorial team

35回目となる「日本の自然」写真コンテストの受賞作品が決まり、7月7日(土)に東京築地の朝日新聞社東京本社で表彰式が行われた。 今回は昨年比143%の10,882点もの応募が集まり、レベルの高いコンテストとなった。今回は審査にも携わった写真家 福田健太郎さんに、最優秀賞、デジタル部門 ソニー4K賞、ソニーネクストフォトグラファー賞、福田健太郎賞の4作品と、自身の“自然”をテーマとした写真について語ってもらった。

福田 健太郎/写真家 1973年、埼玉県川口市生まれ。幼少期から自然に魅かれ、18歳から写真家を志す。写真専門学校卒業後、写真家 竹内敏信氏のアシスタントを経てフリーランスの写真家として活動を開始。日本を主なフィールドに、生命に溢れる自然の姿を見つめ続けている。「泉の森」、「春恋し-桜巡る旅-」など著書多数。公益社団法人 日本写真家協会会員。

――第35回「日本の自然」写真コンテストで福田さんは審査員をされましたが、応募された作品を見てどのような感想を持ちましたか?

とにかくいい作品がたくさんあって、「すごいな」と思いました。みなさん自然や風景としっかり向き合っていて、その素晴らしさが伝わる作品もたくさんありましたので、審査をしていてとても楽しかったです。前回まではデジタル部門に30歳以下という年齢制限がありましたが、今回から撤廃したことで、より多くの方にご応募いただきました。そのため写真の幅がすごく広かったように思います。

――審査する際、注目するポイントがあれば教えてください。 ビジュアルのおもしろさとメッセージ性ですね。作者が伝えたいメッセージが、受け手、つまり我々見る側の人間に伝わり、写真を通して何かを感じることができるか、という部分に注目します。よく「写真を読む」と言いますが、どういうことが読み取れるのか。テーマが「いつまでも守り続けたい 日本の自然」ですから、かけがえのない自然の素晴らしさが心に響くか、見えてくるか、ということを大事に審査しました。

――この写真コンテストにはどのような意義があると考えていますか?

日本の自然を撮ることで、生きていることの素晴らしさを改めて感じることができます。自然と向き合っていると、素晴らしい出合いがたくさんあり、それが自分の財産になっていく。こういったコンテストをきっかけに、多くの人に自然の作品を見てもらい、「日本の風景っていいよね」という「気付き」を感じてもらえると嬉しく思います。 コンテストに参加すると、自分の作品を見つめ直すことができます。落選してしまった方は入選した作品を、目を凝らして見ると思います。すると自分の作品との違いや、自分が足りないものに気付くことができる。気付きは写真の上達に繋がりますから。参加した人でなければ得られないものはたくさんあるはずです。

大事なのは画力の強さだけでなく、作品の広がりや物語性を感じさせること。

――ここからは受賞作品を見ながら、受賞理由や作品の魅力などを伺います。まずは「プリント部門 最優秀賞」の作品からお願いします。

プリント部門 最優秀賞 「貯食に大忙し」 佐藤 圭

北海道に生息しているナキウサギの写真ですね。これは行き当たりばったりで撮れる写真ではありません。おそらく撮影された方はナキウサギが大好きで、何度もこの現場に行き、テリトリーや行動パターンを読んでいたはず。カメラをスタンバイしておかないと撮れない写真ですから、ここに来るだろうと予測して、待ち構えて、ある程度イメージして撮られたのでしょう。 食べ物がなくなってしまう冬に向けて、忙しなくエサを探して駆けずり回り、ジャンプした一瞬を捉えて、季節の流れや命の逞しさが見えてくる作品です。

――「デジタル部門 最優秀賞 ソニー4K賞」の作品も素晴らしいですね。

デジタル部門 最優秀賞 ソニー4K賞 「朝稽古」大野奉之

キツネの毛並みがとても艶やかで、恵まれた環境にいることを感じさせますね。先ほどの作品もそうですが、動物がとても生き生きとしていて、地球上に生きる者の讃歌が響いてくる作品です。こういう作品を見ると、命って本当に素晴らしいと感じます。 背景と溢れる光も効果的ですね。暖色系のまばゆい光が差し込むことで輝いて見えますし、ハイライト部とキツネがいる日陰の部分、明暗さが激しい中でもトーンがうまく出ている。階調再現の豊かさが作品をより引き立たせたと思います。

――こちらは「デジタル部門 ソニーネクストフォトグラファー賞」です。ぱっと見ただけでは何を撮った作品かわからなかった、という方もいらっしゃるようですが。

デジタル部門 ソニーネクストフォトグラファー賞「Ice Age」長尾岬生

説明的ではなく、「これは何?」と思わせるのも写真の魅力だと思います。ドローンを使って、鳥の目で見つめた作品ですが、こういった機材も我々撮り手側は積極的に使いたいところです。 川にシャーベット状に近い薄氷が張り、上流から下流へと押し流されていて、1本の橋を境に画面の左右で違う世界を見せている。氷が割れる音や、自然が絶えず動いている姿が見えてくるような作品です。 あとは写真的な強さですね。橋や土手などの地上からでも氷が割れて流れていく川下は撮れますが、上流部は写すことができませんから。見る角度を変えることによって世界が広がって見えるというおもしろさもあります。

――ご自身が選出した「福田健太郎賞」の作品についてもひとこといただけますか?

プリント部門 審査委員賞 福田健太郎賞「ハサ木を見つめて」井上 正和

新潟県で撮影された稲を干すハサ木の風景です。現代はハサ木で干さなくてもおいしいお米ができるので消えていく風景ではありますが、人の営みが見えてきますよね。この地上の風景と満天の星空。天と地の風景に心惹かれて、ほっとするような優しい気持ちになれる作品だと思って選びました。 寒暖差によって地上には薄いガスがかかっていますが、空はクリアで星空が見える。幻想的な世界に誘ってくれるような力がありますね。

――受賞作品を見てみると、画力のあるものが多いように思いますが。 じっくり見ないと味や深みが出てこない作品もたくさんありますよ。ぱっと見た時の画的な強さも大事ですが、広がりや物語性も写真には大切です。写真から溢れ出てくるものは何なのか。見る人によってたくさんの読み方があるものを自分は選びたいと思っていますし、それがいい写真だと思っています。

――カメラの進化によってコンテストに応募される写真のバリエーションも豊富になってきたと思うのですが、今後はどのような作品を期待していますか? 正直なところ、カメラの進化ほど写真コンテストに送られてくる作品は進化していないような気がします。自然へのアプローチの仕方も含め、もっと大胆に踏み込んだ世界も表現できるのではないかと。例えばドキュメンタリー性があるような、今はこういう時代でこういう状況なんだよ、と現実を直視して届けてくれる写真がもっと出てきてもおもしろいですし。 応募作品はみんなが同じ方向からしか自然を見ていない感じがしますね。だから、ドキュメンタリー的な見方をすると違った写真も出てくるのではないかと思っていて。変わりつつある自然の姿、ありのままの姿を見せるというのも一つの向き合い方です。それと、撮っているのは人ですから、人が感動した、心が動いた姿には個の思いが入ってきます。その人の感情のフィルターを通した作品がもっとあってもいいと思います。

最高の瞬間を撮るためには観察に時間を費やし、しっかりと洞察することが大切。

――福田さんには「日本の自然」をテーマに作品を撮っていただきました。撮影時の状況やカメラのテクニックについてお話しいただけますか?

α9,FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS 315mm,F5.6,1/8000秒,ISO320

これは都内からもほど近い、埼玉県川島町で撮影した、川面から飛び立つ白鳥の写真です。越冬のために毎年たくさんの白鳥が来る有名な場所で撮影しました。 すぐ近くに白鳥のねぐらがあって、そこから出るとまずは一度下流に向かうんです。そこで家族単位で集まって、長い川の直線を滑走路のように進んで飛び立ちます。よく見ると、先頭が幼鳥なんですよね。そんな様子を見ると、お父さんお母さんに鍛えられているのかな、先頭に立たせることで自分がリズムをとれるように訓練しているのかな、と想像力をかき立てられます。 鳥は空気抵抗を分散させるためにV字飛行をしますが、飛び立つ時からV字が形成されているのがわかりますよね。飛び立つ段階で、もう準備ができている。こういうことは生態を観察していないとわからないこと。だから時間をかけていろいろなことをリサーチするわけです。 この時は結局4日間通い詰めました。通うことによって新たな気付きもありますし、写真的にもいいものが生まれるかな、と思って。1日目はいい写真を撮ろうとは思わず、まずは白鳥の動きを観察することから始めました。早朝に撮影するので、薄暗いうちに現地に到着し、100羽近くいる白鳥たちがどういった行動をとるのか自分なりに観察しました。何時くらいに日が出て、どういうライティングで、どの方向に飛び立つのかも確認した上でレンズを選択します。 観察した上で、自分が「素敵な一瞬」と感じた瞬間を写真でどう見せていくかを考えます。鳥や動物の撮影では洞察力が求められるので、私自身もこの部分は大切にしているところです。この時は家族が一体となって飛び立つ姿を見せたかったので、やや広めに写しました。 使用したカメラはソニー α9で、20コマ連写を活用して撮った1枚です。高速連写でもAFの食いつきがよく追随性も高いので、鳥や動物の撮影ではかなり活躍してくれると思います。余計な音がすると自然な動きや表情はなかなか見せてくれませんが、α9には便利なサイレントシャッターがあります。無音で捉えることができて、さらに目では追うことができない瞬間を記録できる。こういったシーンに最適な魔法のようなカメラです。

α7R III,FE 16-35mm F2.8 GM 26mm,F16,2.5秒,ISO50

上の作品は熊本の菊池渓谷です。私は日本の豊かな水の姿を追いかけています。解像度の高いα7R IIIで撮影したので、しっとりした現場の湿度感まで写すことを意識しました。 階調表現においても素晴らしく、生々しさが残せていると思います。出ていますよね。くっきり、パキッと表現されると硬くなりますが、これはナチュラルでなめらかなトーンに仕上がっています。雨に濡れた草木、岩肌などを階調豊かに表現できました。

α7R III,FE 16-35mm F2.8 GM 16mm,F8,1/200秒,ISO200

上の作品は、福岡県の平尾台を撮りました。石灰岩の隙間から芽生えた、生命力あふれる木を主役にした1枚です。逞しい姿にグッと寄ってもいいのですが、私は広々とした風景を入れ込んでおおらかなイメージに仕上げました。 自然の風景は長い年月をかけて育てられたものがほとんどです。ここでもそのゆったりとした気配を誘いたかったので、寄って緊張感を誘い出すのではなく、被写体から距離を置いて撮影しました。この作品には、「のんびり眺めていたい」という思いも込めています。

α7R III,FE 70-200mm F2.8 GM OSS 111mm,F11,1/40秒,ISO200

これは九重連山で撮影した「ミヤマキリシマ」というツツジの一種です。撮影時にちょうど旬を迎えていたので、群生を画面いっぱいに捉えました。一斉に開花した迫力を出したくて、隙なく花を画面に入れ込みました。 鮮やかなピンクとグリーンがパッチワークのようで、そのコントラストにも惹かれました。花の時期はほんの一瞬で、一気に開花してすぐに見頃を終えてしまう。そのはかなさも感じてもらえるかと思います。

α7R III,FE 16-35mm F2.8 GM 18mm,F2.8,30秒,ISO800
*連続して撮影した26枚の写真を、画像編集ソフトを用い、比較(明)合成で完成

このホタルの写真は、比較明合成で繋ぎ合わせたもの。廃線になってしまった鉄道にかかっていたレンガ造りの鉄橋を背景に撮影しました。形の鉄橋の造形も見せたかったので、空抜きにして橋も土手も左右対称に捉えています。 ホタルが放つ淡い光も、デジタルカメラの性能が上がって失敗せずに撮れるようになりましたよね。さらに技術を駆使して、明るい部分だけをつなぎ合わせることで違う世界を見せることができます。

α9,FE 70-200mm F2.8 GM OSS 71mm,F9,1/20秒,ISO100

これは伊豆・天城山のブナの森です。ブナというと細くまっすぐに立つ女性的なイメージがありますが、天城山のブナは風が強いせいか、どっしりとしたスタイル。その中にヒメシャラの木がスッと1本立っているという珍しい風景です。 なんだか妖怪が出てきそうな、おどろおどろしい雰囲気なんですよね。自然は「癒し」だけでなく、容赦ない、寄せ付けない、と思わせる厳しさも持ち合わせている。そういう部分を写真で伝えられればと思いました。 自然は新緑であったり、紅葉であったり、彩りがきれいな時期にはたくさんの人が訪れますが、旬でない季節に訪れるとまた違った一面を見せてくれます。この作品のように、冬枯れした物寂しい雰囲気も印象的ですよね。季節ごとの表情を捉えると、今までには見えなかった新たな発見があるものです。

α7 II,FE 70-200mm F4 G OSS 75mm,F8,1/80秒,ISO200

これはα7 IIで撮影しました。すでにα7 IIIが発売されていますが、あえてのα7 IIです(笑)。 もちろんα7 IIIになってあらゆる面で性能が上がっていますが、風景を撮るならα7 IIでも十分に満足のいく作品が撮れます。上の写真は石川県と岐阜県にまたがる白山の中腹で撮影したものですが、黄色から赤への紅葉のグラデーションも解像感も申し分ありません。α7 IIIと比べると格段に手が届きやすい商品ですし、フルサイズの美しい描写が得られますからね。トータル的なバランスも優れているので、選択される方も多いのではないでしょうか。 自然撮影では道具が足かせにならないことも大切です。重たくて疲れてしまうと撮影する意欲や考える力もなくなってしまいます。一番大事なのは、自分自身が目の前の風景や生き物としっかり向き合うこと。そこに力を注げるように、移動の負担にならないコンパクトな機材を使うのがおすすめです。 コンパクトで、高画質で……と求めたら、αに辿り着いた方が確実に増えています。レンズラインアップも揃い、自分の体力や被写体、行く場所に応じて選べるのもうれしいところです。

いい作品を撮るには、とにかく粘ること。自然が演出する偶然性も楽しんでほしい。

――印象的な自然写真を撮るコツやポイントはありますか? 粘るしかないですね(笑)。観察して、とにかく粘る。自然撮影では偶然の出合いもあるので1日でいい写真が撮れる場合もありますが、撮れない方が圧倒的に多いですから。自分がイメージしていなかったものが突然現れることもありますので、自然相手ならではの不確実さや偶然性も楽しんでほしいと思います。

――最後に、福田さんが自然を撮る時に大切にしていることを教えてください。 「自然とは何か」と考えると、我々にはまだまだ知らないことがたくさんあります。だから、それを知りたい、見てみたいという気持ちは大切にしていますね。自然を相手にしていると、本当におもしろいです。とくに日本は南北に長く、四季があり、3000m級の急峻な山もありますから標高差によっても環境が変わります。自然の多様性が楽しめるので、撮る楽しみは尽きません。 人間は自然の恵みを受けて生き、生かされています。そう考えると自分も自然の一部。それは森の中に入ったり、海を見たり、自然との触れ合いを経験して見えてきた姿です。これからも自然と心を寄り添わせて、一瞬一瞬の素晴らしさを心震えるままに捉えていきたいと思っています。

スペシャルサイト「α Universe」では、プロの作品や撮影秘話・撮影テクニックを紹介しています。ぜひ他の記事も参考にしていただき、次回の「日本の自然」写真コンテストに向けてご活用ください。

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