国立公文書館を訪ねて\

Chamber 25
2018.10.13

国立公文書館を訪ねて
〜デジタルアーカイブの可能性を探る〜

皇居の濃緑を窓から臨む、千代田区北の丸公園。ここに国立公文書館 東京本館はあります。古いものでは江戸幕府が収集したものから、最近の公文書まで約146万件にのぼる資料が保存されており、誰でも閲覧することができます。今回、ソニービジネスソリューションでデジタルアーカイブの推進を担当する千明悟と、ここ国立公文書館を訪れました。

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千明 悟| SATORU CHIGIRA
ソニービジネスソリューション株式会社 営業部門 デジタルアーカイブ推進室

「資料を『永久に』保存するというなかなかシビアな義務である」と言うのは、今回案内してくださった国立公文書館の広報・朝倉亮さんです。

「当館には、日本国憲法をはじめとした国の重要な公文書、織田信長や徳川家康の書状や江戸時代の日本地図といった古書・古文書、平成の時代が始まることを伝えたことで有名な『平成』の書など様々な資料を保存しています。また、毎年度、歴史的に重要な公文書は政府から移管されます。いずれの所蔵資料も永久に保存します。そのため、虫の卵や雑菌の消毒、破損した資料の修復を行い、あわせて一般の利用に供するため、目録の作成、デジタル化してネットで提供、展示会の開催などを行っています。また、歴史公文書などの管理に携わる専門家としてアーキビストの育成にも取り組んでいます」

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――デジタル化は、国立公文書館『パブリック・アーカイブス宣言』にも約束されている重要な課題だと思いますが、デジタルアーカイブはいつ頃から行っているのでしょうか。

「2005年からです。当館にある資料146万件のうち、デジタル化されているものは25万件、割合的には17.2%。まだまだ増やしていかなければと思っています」

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――デジタル化する資料の取捨選択はどのように行っているのでしょうか。

「劣化が激しいものを優先的に行っています。大きな資料だと7メートル四方のものもありますが、デジタル画像なら利用しても劣化が進まず、拡大して詳細に見ることができるというメリットがあります。来年、注目を集めそうなものとして1817年に生前退位した光格天皇の行列の資料があります。20mほどの長い巻物ですが、デジタル画像なら巻物をめくる必要もなく公開ができます。来年、今上天皇の退位が予定されていますが、生前退位の直近の例が光格天皇と言われています」

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――公文書館の利用者は、どのような方たちが特に多いのでしょうか。

「歴史研究者や愛好家が多く、古書・古文書を中心に閲覧されています。一方で、公文書についても利用は増えています。平成23年に公文書管理法が施行され、重要な公文書は当館に移管する決まりになりました。ここに来れば、過去の政策がどのように実行されてきたかが検証できます。公務員や官庁の担当者だけでなく、一般の方にも利用していただきたいですし、私たちとしては若年層の利用拡大を目指しています。小学生の保護者を対象としたツアーを行ったとき、QRコードを掲示したら、小学生たちがこぞってスマホを取り出して読み込んでいました。それを見て、デジタル化を推進すれば小・中学生にも歴史的資料を見てもらえるよい機会になると実感しました」

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――文字に起こされた文章ではなく、実物や画像を見ることで伝わってくるものもありますよね。

「そうですね。たとえば当館に所蔵している『終戦の詔書』では、いわば改ざんのように文字が書き加えられたり、文字を削って書き直した跡が残っており、御名御璽*が最後の一文にかかってしまっている。これは普通ならばありえないことです。いかに状況が切迫していたかが読み取れます。このように直にご覧いただきたい資料はいくらでもあるので、適宜展示会などを企画して、見ていただく機会を増やしていきたいですね。これら資料の一部は、国立公文書館のデジタルアーカイブでも、もちろん見ることができます」
*御名御璽(ぎょめいぎょじ)=天皇の署名と公印

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――デジタル化の意義はどのように考えられていますでしょうか。

「公文書館自体を利用するメリットと答えは重なってくるかと思います。そもそも、アーカイブの意義は二つ唱えられており、一つは『アイデンティティ』。もう一つは『アカウンタビリティ』です。『アイデンティティ』とは、我が国独自の文化ですね。我が国の文化を知るために公文書館が使えるのではないかとの考えのもと、例えば山口県の公文書館では、毛利家の文書を多く保存し、山口県のアイデンティティを確認することにいかされているのではないかと思います。そして、『アカウンタビリティ』は公文書の検証です。海外ですと、フランスでは『フランス革命』が起きたあと、すぐに公文書館が設立されました。当時のフランス政府が所有していた『国民には使わせなかった情報』を市民に分けるため、まずは独立宣言が保存され、その後、フランス王朝が持っていたものが追加されていきました。日本でも中央で情報を抱え込み、一般市民には情報を伝達しなかった時代がたくさんありますよね。公文書管理法が施行されてから、情報の所有者が政府から国民へと移行していく仕組みができたと考えていいと思います。デジタルアーカイブが使われていけば、そういう意義が浸透しやすくなるのではないでしょうか」

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――『デジタル』ならではのメリットもありますよね。

「そうですね。公文書から話が脱線してしまいますが、私は以前、沖縄の政策の仕事をしていました。その際、離島において強く望まれていたものは、医療でいえば電子カルテの普及です。いつもお医者さんたちからは、電子カルテの普及についてこんこんと説明されていました。まさしくデジタルデータ利用の一つの形態だと思いますが、複数人がさまざまな場所から同時にアクセスできるという点は、公文書館の資料に関しても同じようなメリットがあると考えています」

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――一方でデジタルアーカイブの今後の課題はどんなところにあるのでしょうか。

「先ほど申し上げたとおり、デジタル化の実施率は17.2%と、まだまだデジタル化が進んでいないのが現状です。予算の制限がありますが、毎年度、文書も増えていくため継続的にデジタル化に取り組み、実施率を増やしていくことが課題です。また、全国の公文書館ともさらに連携し、横断検索や全国で統一されたメタデータを整えていくことも進めていけたらと考えています」

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――具体的な対策としてどのような施策が行われているのでしょうか。

「現段階において、まずは市民の方々に二次利用の機会を増やしていくフェーズにあります。アーカイブは国民共有の財産ですので、ネットにもオープン可能ですし、出版物など何にでも使うことができます。現在、デジタルデータは文書であればPDF、画像はJPEG、音声はMP3などの形式で保存されています。しかし、そもそも再生可能でなければ意味がないですよね。紙は適切に管理すれば長期保管ができますが、デジタルデータの保存メディアには短命なものもあります。ですから、定期的にデータや記録媒体のマイグレーションを検討する必要があります。ただ、その度に費用が発生してしまいますので、この問題に関しては、今後の技術進展に期待しているところです」

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――今後デジタル化が進むにあたり、将来に向けて多くのことが期待できそうです。

「そうですね。デジタルによる利点は非常に大きいですから。例えば、日本国憲法は実物と同様の再現性を持って保存していますが、文字情報だけでは伝わりきらないこともあります。VRや3Dプリンティングなどの技術進展は目覚しいものがあります。これは私たちも期待するところですし、公文書もさまざまな形態で保存や再生が可能になれば、すごく面白いものになるのでないのかと考えています」

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――単にデジタル化するだけではなく、その先の展開まで考えていくということですね。

「当館の存在を国民の方々に認識していただく普及活動の一環としても、大いに活用していきたいと思っています。デジタルデータは、長期の保存を可能にするだけでなく、自宅でプリントして形にしたり、メディアやイベント会社に活用してもらったり、幅広いサービスに活用してもらうようにしています。公文書館というのは、入れ物は大きく、たくさんの資料が入っているのですが、その資料を知ってもらう間口がとても狭い状況なんです。この間口をたくさん設け、普及に努めていきたいですね」

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初めて足を踏み入れた国立公文書館。隣には東京国立近代美術館や科学技術館、そして目の前には皇居と素晴らしい環境にあります。気軽に見られる資料も常時展示されていますが、中にはまだ見ぬ深い深い森があると感じました。この膨大な資料は、ただ長期的に保存されるだけでなく、いろんな形で世に出されていくべきものです。資料はすべて“国民の財産”。まずはデジタルアーカイブが入り口になることで、多くの人に資料が持つ可能性や価値を感じてもらえるのではないかと思いました。(千明 悟)

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国立公文書館

東京都千代田区北の丸公園3-2(東京メトロ東西線竹橋駅1b出口より徒歩5分)
閲覧室開館時間: 9:15〜17:00
http://www.archives.go.jp/

国立公文書館デジタルアーカイブ
https://www.digital.archives.go.jp/

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