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3C's

Creative
Craftsmanship
Challenging
22

Atsushi Makino

Film Director
アナログな手法から最先端技術まで。
あらゆる手法を取り入れて描く
独自の世界観

牧野 惇

1982年生まれ。2006年よりチェコの美術大学UMPRUMのTV & Film Graphic学科にてドローイングアニメーション、パペットアニメーションを学んだのち、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーションコース修了。実写・アートワーク・アニメーションの領域を自在に跨ぎ、映像ディレクション、アートディレクションから、アニメーションディレクション、キャラクターデザイン、イラストレーションまで総合的に手掛ける。

さまざまなアニメーション手法を取り入れたバリエーション豊かな作風が特徴的な映像ディレクターの牧野氏。パペットアニメーションに憧れて本場・チェコに渡り、2年半それを学んだ牧野氏の作品は、国内外問わず注目を集め続けています。最近ではYOASOBIの『群青』、ペンタトニックス「ミッドナイト・イン・トーキョー feat. Little Glee Monster」のMVが注目を集めています。映像業界の最前線で、独自の作品を作り続ける牧野氏に、制作のこだわりをはじめ、映像制作における3C(Creative Craftsmanship Challenging)を聞きました。

chapter 01
ゲームのCG表現やアニメ映画に影響を受け、映像の道へ

実はもともと映像には全く興味がなかったんです。僕の家は、親戚や兄弟に医者が多い理系一家。幼い頃から勉強ばかりしていて、特に化学が得意な子供でした。そんな僕が映像に興味を持ったきっかけは、高校生の頃にプレイしたゲームのCG表現や、ビートルズのアニメ映画「イエロー・サブマリン」です。「イエロー・サブマリン」は音楽好きな友人の父親が見せてくれたのがきっかけでしたが、僕と友人はその映像が面白くて大好きで、何度も見返していました。当時、アニメと言うと少しオタクっぽいという偏見がありましたが、それを機にアニメに対するイメージが180度変わったのです。それがきっかけとなり、化学の道から一変して映像に興味を持つようになりました。

高校卒業後は名古屋市立大学の芸術工学部に入学。その後、パペットアニメーションを学びたいと考え、本場チェコの美術大学にてドローイングアニメーション、パペットアニメーションを学びました。さらにそこから、東京藝術大学大学院映像研究科へ進み、ここでもアニメーションを学んでいました。

在学中から働き始め、最初はテレビの仕事がメインで、番組内で使用されるオープニング用のアニメーションなどを担当していました。いくつかテレビの仕事を続けていく中で、とある番組でジングルを作ったのですが、これが初めて1人で作った作品でした。周囲に相談などはせずに1人でやり切ることができ、その経験が自信に繋がっていきました。

chapter 02
ターニングポイントとなったササノマリイのMV

これまで手掛けてきた作品の中でも、特に印象深いのはササノマリイの『共感覚おばけ』のMVです。少し上から目線のような話に聞こえるかもしれませんが…、当時、ササノマリイくんに美大時代の自分と似たものを感じたことを覚えています。メロディも歌詞もすごく良いのだけれど、この楽曲を一体どれくらいの人が理解してくれるか、伝わるかと考えたとき、その間口を少しでも広げたいと思ったんですよね。だから、楽曲に僕が物語を添えることで、MVを見た人たちが楽曲の意味や世界観をもっと理解してくれると良いなと思って作りました。

共感覚おばけ / ササノマリイ(sasanomaly)

これまでも人形を使った作品はいくつも手掛けていましたが、この時初めて(人形などを動かすための)手を映り込ませたのです。その理由は2つあります。1つは、ループ素材を使いたくなかったから。これはアニメーションを作る側のある種の“美学”かもしれません。そして2つ目は、真逆のアプローチに聞こえるかもしれませんが、単純にアニメーションが面倒くさいからです。

この仕事をしていてつくづく感じるのですが、手間をかけたらみんなに響くというわけでは決してありません。「このアニメーションを作るために何万枚の絵を描いています」というのは、あくまで作り手側の苦労で、それが面白さに比例するわけではありません。それならば、もうちょっと手を抜いても良いんじゃないかなと思うようになったのがきっかけですね。

chapter 03
ただ単に美しいキャラクターは描かない

『共感覚おばけ』のMVは少人数で作ったので、映り込んでいるのも自分の手です。過去に他の方にお願いしたこともありましたが、棒を持つ手に込める力の加減をなかなか言語化するのが難しく、ディレクションしづらいのです。指の力加減は繊細なもので、その説明をするために現場が混乱するくらいなら自分でやったほうがいいだろうという結論に至りました。人形の構造も含めてデザインの段階で決めるので、コンテを描く段階ですでにパースはもちろん指の動きまでおおよそのイメージがあります。

僕の作品を見ていただくと分かると思うのですが、あまり似た画がありません。毎回その物語に合うデザインにしているからです。そして、もう1つこだわっているのが、ただ単に美しいだけのキャラクターは描かないようにしているということ。目が縦だったり髭が生えていたり、ほくろがあったりとわざと“癖”を出すことで、記憶に残るような絵を作りたいんです。

ちなみに、当時チェコに居たとき、フランス人の友達に「君はアニメーションは上手だけど、絵がめちゃくちゃ下手だね」と言われたことがあって(笑)。それを機に、一年半くらい死ぬほど絵を描いていました。連日学校帰りの路面電車の中で乗車している人々を描きました。そんな生活をずっと続けていたので、このときスキルが身についたと思います。

『共感覚おばけ』のMVは、当時VimeoのStaff Pickに選ばれ、後日いろいろな方から連絡をいただきました。アメリカの美大生たちが僕を訪ねてきたこともありました。そんなことは初めてでしたので、そうした意味でも大きく手応えを感じる作品となりましたね。

chapter 04
最新作「ミッドナイト・イン・トーキョー feat. Little Glee Monster」における制作のこだわり

ペンタトニックス「ミッドナイト・イン・トーキョー feat. Little Glee Monster」は、最新技術を駆使した映像作品です。当初の予定では、アメリカへ撮影に行くという話も出ていたのですが、新型コロナの影響があり、現地撮影ができなくなってしまったのです。そこで、ポリゴンを提案しました。というのも、従来のペンタトニックスのMVは一画面に対してメンバー1人ひとりの顔が分割して出てくるパターンが多かったので、違うアプローチにしたいと考えていたからです。

次にMVに登場するソニーの電気自動車VISION-S Prototypeですが、国内ではまだ公道を走ることができなかったため、ソニーPCLのバーチャルプロダクションで撮影することが決まりました。つまり、新型コロナの影響に加えさまざまな制約・条件がでてきたことで、それを解決する手段として最新技術を複数用いたのです。今回はバーチャルプロダクションという新しい撮影・制作技術をうまく活用させてもらえたと実感しています。

加えて、このMVには東京の風景が出てくるのですが、実はこれを撮影した前日に二回目の緊急事態宣言が発出され、夜の街は真っ暗でした。事前にロケハンもしていたのですが、その時よりも輪をかけて暗かったです。そのため、特に冒頭のシーンはオンライン編集で色を足しています。あとは、バーチャルスタジオでわざと明るめにしたCGの街を一つ作ってもらったりもしました。これにより、本作が緊急事態宣言下に撮影されたとは誰も思わないんじゃないかという仕上がりになりました。本当に技術の進歩には驚きましたね。

ペンタトニックス「ミッドナイト・イン・トーキョー feat. Little Glee Monster」ミュージック・ビデオ

ペンタトニックス「ミッドナイト・イン・トーキョー feat. Little Glee Monster」メイキング・ムービー

chapter 05
「未来の東京」を描くことができた

▲緻密に描き込まれた『Midnight In Tokyo』のMVのラフ

「ミッドナイト・イン・トーキョー feat. Little Glee Monster」のMV公開後は各方面から色々なリアクションをいただきましたが、なかでも嬉しかったのは「未来の東京みたい」と言っていただけたことです。コロナ禍で多くの制限があり、心配事も多かったのですが、東京の街を明るく見せることができ、結果としてそこに未来を感じてもらえたのであれば、MVに関わってくれたみんなが喜んでくれるのではないかと思います。

僕はこれまでアニメーション作品を多く手掛けてきましたが、本作で実写ならではの良さも改めて実感しました。アニメーションは、描いたものしか出てくることはありませんが、実写の場合は想定外に良いことが起きたりしますよね。

本作の場合だと、想像以上にLittle Glee Monsterのみなさんが楽しそうに踊ってくれたことがプラスに働きました。従来のグリーンバックでの撮影と異なりバーチャルプロダクションだったので、作りたい世界観を理解し、全員で共通の目線を持てたこともよかったです。

chapter 06
今、注目している手法は"影絵"

今後チャレンジしたい手法のひとつは影絵です。

影絵のいいところは、なんと言っても素材感を無視して、全部一つにしてしまえるところ。たとえば缶を頭に乗せて影にするだけで、別々だったものが一つになるんですよね。何を組み合わせても良いという自由さが面白いと思ったのです。

その反面、難しさもあります。僕のこれまでの作品は、細かい絵作りが多かったのですが、影絵ではそれができません。だからこそ潔い絵作りをしないといけないので、そこを追求していきたいですね。

あとがき

最新作となるMVではポリゴンや実写を駆使した映像が記憶に新しい牧野氏。パペットアニメーションのみにとどまらず、今後は影絵に挑戦するなど、新しい手法に取り組む牧野氏は、自身のことを「飽き性だから」と話してくれました。私たちは、そんな牧野氏が生み出す映像作品に、今後も驚かされ続けるのではないでしょうか。また、どこか癖のあるキャラクター作りの背景には、見た人の記憶に留まる映像を作りたいという強い想いがうかがえました。事実、彼が手掛けてきた作品は国内外から高い評価を得るなどし、多くの人の印象に強く残っているはずです。MVやCM、プロジェクションマッピングなど、多方面で仕事を進めている最中だと話していた牧野氏。今後のますますの活躍に期待したいです。

Text : Yukitaka Sanada
Photo : Ryosuke Oshiki

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