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3C's

Creative
Craftsmanship
Challenging
16

Yuya Shiroto

Motion Designer / Editor
テレビからWebへ。
飽くなき探求を続ける「映像の魔術師」

白戸 裕也

日本大学芸術学部放送学科卒業。大手制作会社にて、テレビCM・WebCMのポストプロダクションを経験。サイバーエージェントにて、ABEMAの番組宣伝映像やオープニング映像、イベント用映像などの編集を担当。現在は、オンライン動画制作に特化したクリエイティブ集団「6秒企画」にて、モーションデザイナー、エディターを務める傍ら、映像系イベントにも多数登壇、記事も執筆している。

サイバーエージェントグループでオンライン動画制作に特化したクリエイティブ集団「6秒企画」。 「これからは動画の時代」という言葉が世に出て久しい中、モーションデザイナー/エディターの白戸氏はその言葉をどう捉え、またどのような工夫を凝らして映像制作をしているのでしょうか。視聴環境がテレビからスマートフォンへと移り変わる中で、構図やカットのタイミング、テロップの大きさからナレーションに至るまで、先端の映像手法を駆使する白戸氏の3C(Creative Craftsmanship Challenging)を聞きました。

chapter 01
きっかけは、卒業する先輩に宛てた1本のビデオ

私の地元は、青森県弘前市というところなのですが、桜で有名な場所なんです。春になるとピンク色の景色で覆われる場所で育ったからなのか、小さい頃から自然と“色彩”に興味を持っていました。さらに、小学4年生の時に叔父がパソコンを買ってくれたのがきっかけで、幼い頃からガジェットや機材に囲まれて育ちました。趣味でワイヤレスマイクとかラジオを作ったりもしていましたね。ちなみに、今でも自宅にはハンダゴテやケーブル・コネクターがあり、つくづく当時から趣味が変わってないなと思います(笑)。

転機となったのは、中学2年生のときです。当時、一学年上の先輩へ卒業記念ビデオを制作してプレゼントしたのですが、すごく喜んでもらえて。Windowsムービーメーカーで作った音楽付きの簡単なスライドショーでしたが、この出来事がきっかけで映像に興味を持つようになりました。自分が作った映像で、他の誰かが喜んでくれた。そんな手応えを感じ、とても嬉しかったことを覚えています。先にお話しした色彩やガジェット好きというのもあり、将来は映像制作に関わる仕事をしたいと考えるようになりました。

そこから、本格的に映像を勉強しようと日本大学芸術学部の放送学科へ進学。在学時は、産学連携プロジェクトで企業の映像を制作したり、目黒にある映像制作会社でアルバイトしたりもしていました。そして、「映像制作における色管理」という論文を書いて、大学を卒業しました。卒業後は大手制作会社に新卒入社します。その会社が手掛けていたのは主にテレビCM。短い時間にギュッと情報が詰まった、質の高い映像を作ることができる点に惹かれ、入社しました。一流の監督やクリエイターの仕事ぶりを見ているうちに、「モーショングラフィックスを中心に仕事をしたい」という想いが日に日に強くなっていきました。そして、当時ちょうどモーションデザイナーの募集があったサイバーエージェントへの転職を決意しました。それが2016年の出来事です。当時はABEMAに在籍していたのですが、2019年の立ち上げとほぼ同時期に「6秒企画」へ異動しました。

chapter 02
あらゆる視聴環境を意識した映像づくり

今現在は、ポストプロダクション領域の全てを担当しており、撮影現場での編集、オフライン編集、オンライン編集、モーションデザインに至るまで幅広く手掛けています。6秒企画での仕事は、人間の感情の機微を描く「編集もの」、精緻(ち)なコンポジットが鍵を握る「合成もの」、そして私の得意分野である「モーションもの」、さらに最近では、バーチャルプロダクションの案件も増えてきています。まさに多種多様なジャンルに挑戦できるので、とても刺激的な日々を送っています。

そんな日々の中で心掛けているのは、「さまざまな視聴環境を意識する」ということ。前職では主にテレビCMを手掛けていたので、テレビの枠から出ることはありませんでした。ですが今は、PC、スマートフォン、タブレット、サイネージなど、人びとの視聴環境は多様化しています。同じCMでも、異なるフォーマットにマルチユースされる場面も増えています。そこで、視聴環境を意識した演出を心掛けており、構図やカットのタイミング、テロップの大きさ、デザイン、ナレーションや効果音に至るまで、媒体ごとに最適化することをとても大切にしています。「クリエイティブを良くするなら、やれることは全部やる」というスタンスでいるので、監督の意図を汲みつつ、より良い作品に仕上げるために日々研究しています。以前、出演女優さんの表情が豊かで撮れ高がとても高く、コンテ通りだけだともったいないと考え、コンテを完全に無視したタイプを勝手に作ったら好評で。そのまま採用され公開となったというエピソードもあります(笑)。いい意味で遊びながら、かなり裁量ある環境で仕事をさせてもらっています。

“6秒”って、長いようで短いし、短いようで長いんです。演出方法も試行錯誤を繰り返しています。たとえば、6秒を逆手に取って、キャストに敢えて早口で台詞を読んでもらったり、訴求内容を一つに絞ったり、冒頭で結論を見せてしまったり。さらに、今の若い方だとTikTokユーザーも多いですよね。そうした若年層をターゲットにする場合なんかは、むしろカット数が多い方が飽きずに観てもらえることもあったりするのです。

「6秒企画」Webサイト

https://www.sixseconds.co.jp/

chapter 03
バーチャルプロダクションをはじめとした最新技術に触れる

最近注目している映像関連のトレンドは大きく分けて二つあります。一つは4K、8Kなどの高解像度化。YouTubeで国内外の映像作品を見ていると、やはり4K以上の解像度を持つ映像は綺麗だなと。試しに解像度をフルHDに落とすと「あれっ、こんなに画が甘かったっけ?」と思うようになってしまいましたね。これからどんどん画がリッチになっていくと思うので、自分の仕事にも取り入れていきたいです。

次にバーチャルプロダクションです。弊社が所有している「カムロ坂スタジオ」では、バーチャル領域に力を入れています。バーチャルは、ひとつの知識だけでできるものではなく、照明や撮影、3DCG、コンポジットなどあらゆる知識が融合して初めて実現するもの。それゆえに難しいのですが、だからこそ燃えるんですよね(笑)。登場して間もない先端テクノロジーなので、まだまだ手探りです。今現在もチーム一丸となって、いくつかのバーチャル事例を手掛けている最中です。

渋谷スクランブル交差点のような、そもそも撮影が難しいロケーション、天候、時間、予算などのさまざまな制約を取り払い、自由にクリエイティビティーを発揮できるのがバーチャルの魅力なのではないでしょうか。この領域は今後もっと発展していくと確信しており、今から楽しみです。

chapter 04
安心感がありながら野心的でもあるソニー製品

ソニー製品との出会いは、もう思い出せないくらい昔のこと。テレビがまだブラウン管だった時代にまで遡ります。実家には、ソニー製のMUSE方式アナログハイビジョンテレビがありました。日常生活の身近にあったので、今こうして仕事のツールとしてソニー製品を愛用しているのも、自然な流れですよね。私が機材を選ぶ時のこだわりは、「信頼できること」と「野心的であること」。品質が高く、長く使っていける製品はシチュエーションを問わず心強い相棒になります。一方、野心的な製品は、単純にガジェット好きとしてワクワクしますよね。普段の仕事では、片方だけを満たすもの、もしくは両方を満たすものを選ぶようにしています。

たとえば、編集用のヘッドホンとして「MDR-CD900ST」を長く使っていました。最近は次なるスタンダードとして、「MDR-M1ST」に乗り換えたところです。野心的な製品といえば、1月に発表された「α1」と「Xpreria PRO」に興味津々です。全部入りという感じがして、本体側面のポートを見るだけでもワクワクします。もちろん値段が値段なので、要検討ではありますが(笑)。

今現在(※)、弊社は完全リモートワークなのですが、自宅にもオフィスと同等の作業環境を整備しています。ガジェット好きというのもありますが、私は気になったらまずは買ってみるようにしています。自分で使ってみないと手に馴染むかどうかは分かりませんし、評判の良くないものでも、使い方次第では優秀に機能してくれる場合もあります。秋葉原に足を運んで「これ何だ?!」っていう海外製の怪しいガジェットを買い漁るのも、結構好きです。
(※取材日である1月28日時点)

chapter 05
白戸氏が目指す“映像の魔術師”とは

今後の挑戦でいくと、「映像の魔術師」になりたいと思っています。名前が白戸なので白魔術ですかね(笑)。具体的な例を挙げるなら、「バーチャルプロダクション」と「ハイエンドなコンポジット」。先にお話しした通り、バーチャルプロダクションは世の中のトレンドですし、弊社でも案件が増えています。幅広い知識が求められ難易度も高いと思いますが、だからこそ燃えます。

また最近、ノードベースのコンポジットソフトに熱心に取り組んでいます。エンジニアチックで、最初はとっつきにくい印象があるけど、自由度も高い。だからこそ好きなんです。さらには、3DCGソフトやGPUレンダラー、DAWなど日々トレーニングを重ねています。もはや、ひとりポスプロですね(笑)。 将来は国内だけではなく海外でも通用する技術を身につけ、活躍していきたいと考えています。ただ、そのためにはそれ相応の技術力をつけないといけないので、ひたすら実践あるのみです。

あとは、ドラマや映画のタイトルシーケンスを手掛けてみたいですね。ABEMAにいた時も作ってはいたんですが、より抽象度が高くかっこいいものを作ってみたいです。

chapter 06
映像業界を志す方へのメッセージ

しっかり勉強をして、実践を繰り返すことが必要なのではないでしょうか。映像制作はあらゆる知識・技術・経験の集合体であり、一朝一夕に身につくものではありません。私の座右の銘に「Where there's a will, there's a way. (意志あるところに道は開ける)」があります。私自身まだまだ映像制作の道を歩み始めたばかりですが、強い意志を持って進んでいきたいと思っています。

具体的な勉強方法をお話しすると、海外のチュートリアルを一度まるっと見て、今度はそれを見ずに自分で再現するという方法。そしてそれを何回も繰り返す。インプットとアウトプットの連続ですね。あとは、分厚い専門書籍を読み込んだりもしています。道は長いです。今時、ショートカットしようと思えばいくらでもできるのかもしれませんが、時間を掛けないといいものが生まれないこともあります。土台がしっかりしていない家は崩れてしまうのと同じです。だから私は、基礎をしっかりと固めるように意識しています。

あとがき

自宅にハンダゴテがあったり、分厚い参考書を読み漁ったり、最新機材を実際に使ってみたり――。日々挑戦を繰り返す白戸氏は、まさに“無類のガジェット好き”なクリエイターでした。ガジェットと聞くと、流行りもののように聞こえてしまうかもしれません。ですが、その背景にあるのは、時代に即した映像をクオリティー高く生み出していきたいという熱い思いでした。視聴環境の変化、動画メディアの確立、新型コロナウイルスの影響。映像を取り巻く環境は刻一刻と変化しつつあります。その中で、飽くなき探究心を持ち続け、日夜試行錯誤を繰り返す白戸氏の目には、一歩どころか二歩先の映像の未来までも見えているのかもしれません。今後はWeb以外にも、映画やドラマのタイトルシーケンスを手掛けてみたいとお話していた白戸氏。今後の作品にも注目したいです。

Text : Yukitaka Sanada
Photo : Yuji Yamazaki

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