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3C's

Creative
Craftsmanship
Challenging
01

Takehiro Oishi

Director
サプライズを引き起こす映像術

大石 健弘

代表作に「不二家ミルキーみんなの笑顔篇」「マクドナルド 募金してくれて、ありがとう」「バンホーテンココア 理想の母親」など。株式会社Happilm代表。2018年よりAOI Pro.ビデオグラファーチーム アドバイザーも務める。

短い映像の中で感動させるため“サプライズ”を上手く使う大石氏の手法。徹底的にリアルを追及する大石氏のこだわりとはどういったものか。大石氏に映像制作における3C(Creative Craftsmanship Challenging)を聞きました。

chapter01
サプライズの鍵は被写体の主体性

“被写体の主体性”をいかに引き出すかに僕はこだわりを持っています。普通、撮影をすると撮影をされる側(被写体)は受け手になり、主体性はありません。しかし、僕は本人がそこにいたい、そうしたい、と思える“当事者意識”を持ってもらうことが大切だと考えています。映像をどう撮るかよりも、やはり被写体が主体性を持って参加できるにはどうすれば良いか、ということを重視しています。

以前、兵庫県豊岡市による地方創生の映像で“親から子へのサプライズ卒業式”という企画がありました。通常の卒業式の終了後、親が出てきて「18年間の想いと共に、羽ばたいていけ!」と背中を押すように卒業証書を子どもに贈る、というサプライズ企画です。(以下参照)

制作側が企画立案をするとなると、卒業生の親としては“(卒業証書を渡すことを)お願いされたからやる”という受動的な形になりがちで、渡す時の言葉には感情が乗らないし、想いもそこに入りきりません。でも、「子どものために私は本気で卒業証書を贈りたい、だからやります。この場にカメラがあるけどそんなの関係ありません」という風に親側の主体性が入ると、振る舞いは全く変わってきますよね。顔、言葉、動き、出てくる感情の全てが本物になるのではないでしょうか。

まず卒業式の数ヶ月前、市役所に生徒のご両親に集まってもらって説明会を開催しました。そこで僕らの想いと、なぜこの撮影を行うのか、「映像を作るためではなく、皆さん自身のためになるようなイベントを開催します。この場を使って家族の1つの思い出にしてください」という話をしました。その結果、11名の方に自らの意思で参加を表明していただけました。

実際の完成映像は7分ほどです。ただ、せっかくの家族のイベントなのに、自分たちがほとんど映っていない作品がアップされて終わりだと残念に思ってしまうかもしれないので、後日ノーカット映像を皆さんにプレゼントしました。

制作側にとって都合の良い考えだけが先行すると、「どうせ使われないんでしょ」とか「自分は広告のためにやらされている」という主体性とは逆行した思いが生まれかねないのです。

chapter02
レンズ選びは被写体との“心の距離”

僕は映像におけるレンズ選びというのはとても大事だと考えています。なぜかというと、ミリ数と心の距離というのは連携していて、どういう風にその人と近づいていくかという撮影者の意思が表れると思うからです。

今この場で対談している時、仮に僕の目がカメラだとします。この距離(2m程度)だったら35mmか50mmですね。僕が相手とコミュニケーションする時の置きたい距離感とレンズの焦点距離は、結びついているのです。つまり撮影とはコミュニケーションであって、ビデオグラファーの心理が無意識に反映されるはずです。それがレンズの焦点距離にもつながり、画にもつながり、見る人にもつながっていくと考えています。

ちなみに、僕自身最近は25mmが好きです。少し前に尊敬している映像ディレクターにお会いした時に、「僕は基本は25mmか35mm、長くても50mmです」と、望遠レンズは持たないという話を聞きました。その発見が自分にとっては面白くて、望遠レンズで撮影されたドキュメンタリーは客観性が強くなりすぎて見ている人の心には届きにくいかもしれない、と気づかされました。

それまでは50mmをメインに使っていたので、直後の案件から試しに25mmで撮り進めてみたら、意外にも心地よくコミュニケーションが成立しました。遠目からの覗きではなく、被写体の近くでレンズを通じてどういう観察をするのか。ドキュメンタリーとしての強さが増したのではないかと感じましたね。言語化するのが難しいですが、確かに25mmで撮るとその人がそこにいる空気感、リアリティーみたいなものが増して映し出されるように思います。その経験もあって最初に選ぶレンズが変わりました。

chapter03
いつ何が起こるかわからないドキュメンタリーには機動性が重要

使っている機材で大切にしていることは、軽さ・画質・手ブレ補正、そして機動力です。僕は基本的に、手持ちカメラで撮影をします。一脚にカメラをつけて撮影したことがあるのですが、自分が撮りたいと思った瞬間に良いアングルに入れなかったり、瞬時に脚の長さを変えられなかったりすることがストレスでした。いつ何が起こるかわからないドキュメンタリー撮影の現場では、撮りたいアングルに素早く動ける機動力が必要です。

リグを組んで周辺機器を付け足すとなると、重さで腕に負担がかかり手ブレしてしまうので、リグすらしばらくつけていませんでした。でも、最近とても軽いモニターを見つけて、それだと手ブレに影響がありませんでした。なので今は、L字のリグにモニターとマイクをつけて撮影しています。勿論、筋肉をつける必要性も感じています。(笑)

chapter04
映像を撮る意味は、アウトプットだけではなく“新しい気づき”を相手へ

映像には大きな力があると思っていて、その1つは、人に人生のきっかけを与えることだと思っています。映像を撮るもしくは撮られる機会があったからこそ、初めて言えた、初めて知った、心の中に潜んでいたものが出た、そういう美しい瞬間を引き出す力があります。「撮らなかったら気づけなかった」とか「撮ったから分かったよ」みたいな感想はとても嬉しいものです。

さらに、その映像を見た人が背中を押されたり新たな発見をしたりと、多くの可能性を持っています。保存もコピーも配信もできるので、その影響力は計り知れません。

先ほどもお話しした“親から子へのサプライズ卒業式”でも、参加してもらうことで、その親子関係が1歩でも前に進むことを願っていました。あの場が人生の1つのきっかけになった、それが小さなものでも前向きな何かが生まれれば、作り手として幸せですよね。その人の人生を1歩進める映像の可能性を、僕は信じています。

chapter05
さらなるサプライズの進化へ、次なる挑戦とは

自分が次にやりたいチャレンジは、2つあって、1つは自分発信のドキュメンタリーを作りたいと考えています。誰かに依頼されてドキュメンタリーを作るのではなくて、自分から「この人のドキュメンタリーを作りたい!」という想いのもと発信していきたいです。例を挙げると、日本では超マイナーなスポーツなのに、めちゃくちゃ本気で頑張っている人とかでしょうか。ビジネスというよりも、単純に自分のやりたい活動、スポーツ、趣味を逆境の中でも地道に頑張って世に届けようとしている人を、僕は応援したくなります。がむしゃらに本気で頑張っている人には惹かれますよね。上から目線ではなく、純粋に誰かの役に立ちたいという想いがあります。

もう1つは、僕が大好きなサプライズをもっと広めていきたいです。サプライズには、する方もされる方もお互いの絆をアップデートする力があると思っていて、例えば豊岡市のように、サプライズと地方創生を掛け合わせた大きなムーブメントができないかなと考えています。これについては、既に他社と連携しながら自主プロジェクト的に動き始めていて、非常にワクワクしているところです。

あとがき

今回、取材してみて、映像だけでなく、映る側への配慮や責任に対し“こだわり”を感じました。
映像を撮るときに、被写体はどうしても被写体としてしか見られなくなる人も多いのではないでしょうか。
映像制作者の責任とは、「多くの人へ届ける」ももちろんありますが、撮影される人がいかに幸せになるか、「被写体へ届ける」ということもあるのかもしれません。
大石氏の映像はそういった想いがしっかりと見える映像です。
ちなみに、今回の取材で触れた豊岡市のサプライズ映像のメイキングの方も、是非ご覧ください。

また、大石氏のドキュメンタリー映像のルーツである YouTubeチャンネルも是非ご覧ください。ブライダル映像が多数アップされておりますが、ウェディング映像のアワードで日本一に輝いた作品や100万再生を突破したものなど、友人向けに作ったとは思えない感動映像の数々です。
(2016年ソニー主催のProfessional Movie Awardで準グランプリを受賞した大石氏の作品「響子先生への家族授業」も、友人のために制作されたウェディング映像です)

https://www.youtube.com/c/happilm

Text : Shuntaro Okamoto
Photo : Yuji Yamazaki

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