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正ちゃんレンズメーカーに行く(設計対談編)
正ちゃん 前回は工場見学レポートでしたが、今回はレンズ設計者との対談となりました。
今後のレンズ選びや運用に、ぜひ参考にして下さい。
正ちゃん 卓、ここからはレンズ設計の方々にお話を聞くことができるけど、いったい何を聞こうと思っているんだい?
タク 撮影現場で、レンズを使う上で注意することとか、レンズメンテナンスの仕方とか、HDレンズとSDレンズの違いとか、もう、たくさんありすぎて・・・・
レンズメーカーの設計の方に、丁寧にいろいろなことを教えて頂きました。
加藤さん : 遠慮はいりません。なんでも聞いてください。

応接室で質問に答えて頂きました。

卓 : (照れくさそうに・・)それでは、不勉強なところもあると思いますが、よろしくお願いします。
まずは、僕が持っているXDCAM EXのレンズなんですが、これまでの小型HDカムコーダーのレンズに比べてとてもキレがよく、色にじみも少なく感じます。なにか新しい技術など使っているんですか?
矢作さん : 実は、私たち放送用レンズ設計グループは、こういった小型カムコーダーのレンズを初めて作りました。
卓 : えっ、初めて?
矢作さん : そうなんです。これまでは放送用のレンズを設計してましたから。だからXDCAM EXのレンズは、放送用レンズの技術をふんだんに使いました。

XDCAM EXカムコーダーのレンズ

卓 : そうなんですか!!  
矢作さん : XDCAM EXは1920×1080のフルHDセンサー採用で水平解像度1000TV本以上という、放送用カメラと同等かそれ以上のスペックが目標でした。それでいて、価格を抑えないといけないから大変でした。・・・正直、苦労しましたよ(苦笑)  
卓 : XDCAM EX専用のショートズームレンズはひずみが少ないと感じていますが、これも同じ理由なんですか?
矢作さん : おっしゃるとおりです。ハイビジョン映像は大画面で見ることが前提とも言えます。そのために、ワイドコンバージョンレンズでは実現できない、本当にひずみの少ないレンズを目指しました。

光学設計部 矢作さん

卓 : XDCAM EXの高画質の一役を力強くサポートしてくれているわけですね。頼もしいレンズですね。
卓 : ちょっと具体的な質問なんですが、XDCAM EXレンズのズームをサーボ側にしていた時に、間違えてズームリングを無理に回してしまったことがあります。これで壊れたりしませんか?  
加藤さん : サーボ状態で、無理に手動でリングを回すとギアの歯飛びが発生しますが、数回のことであればすぐに壊れるということは無いはずです。ただやはり、しっかりマニュアル側に切り替えてからリングを手で回して下さいね。

テレビレンズ部 加藤さん

卓 : 次は、レンズを長持ちさせるための秘訣を教えて下さい。  
加藤さん : いい質問ですね。まず、レンズの大敵はカビです。したがって、湿気を嫌います。最近のレンズは昔のレンズに比べると湿気が入り込みにくくなっていますが、「湿気はレンズの敵」と頭に入れておくだけでも違ってきます。タバコの煙なども苦手です。クリーンな環境で保管して下さい。
また、振動も好みません。工場でご覧になられたように、レンズは精密機器です。放送業務用レンズは20枚以上のレンズ群で出来ていますので、やさしく使って頂きたいですね。
後はごみも大敵です。可動部分にごみが入ると、動きにスムーズさが無くなってきますから、これも注意して下さい。
 
卓 : もし、雨に降られて、濡れてしまったらどうしたらよいですか?  
加藤さん : 例えば小雨に短時間降られてしまった場合などであれば、レンズ部以外の水滴を可能な限りタオルなどで取り除いて、自然乾燥させて下さい。ドライヤーなどで急いで乾かすことは決してしないで下さい。  
卓 : レンズ面が汚れてしまった場合は、きれいなハンカチで拭いてもいいんでしょうか?

大型レンズを拭いています

加藤さん : レンズの前玉はデリケートです。だから、ハンカチなど乾いた布で拭くのはNGです。まず、エアブローして出来るだけごみを飛ばして下さい。それでも取れない場合は、不織布に有機溶剤をしみこませて、中心から外側に向かってゆっくり丁寧に汚れを囲い込むように、円を描くように回しながら拭き、最後は汚れをレンズ筒の内側に持ち込んで拭い去るようにして下さい。レンズを拭くのは本当に難しいです。写真は大型レンズを拭いているところですが、小型のレンズもまったく同じです。
下川さん : 決してお勧めではないのですが、やむなくどうしても現場で汚れとか水を取り除かければいけない時、例えば肌着のようなきれいな綿100%の柔らかな布に水を含ませて、固く絞り、ゆっくり回しながら拭き取るのを現場でよく見かけますね。この時も、汚れでレンズを傷つけないように布を動かさないといけません。ただやはり、基本的にはレンズの前玉は拭いてほしくないですね。前玉にごみがつかないように、レンズ購入時にフィルターを装着しておくことをお勧めします。「前玉は汚さない、触らない。」これが基本です。

営業部下川さん

卓 : 今度、海辺の撮影をするんですが、潮風の吹く海辺で撮影するときに、塩気への注意事項はありますか?  
加藤さん : 海水がかかるなど塩そのものが付着すると問題ですが、塩気は避けようがないですし、それなりの耐塩性はありますから、必要以上に気を使い過ぎなくていいと思います。それよりも、注意すべきは細かな砂塵ですね。先ほどレンズの大敵の一つにごみがあると言いましたが、その中でも砂塵が一番です。浜辺に引いたレジャーシートの上に置くなどは、しないほうが良いですね。  
卓 : もう一つ質問があります。一度しっかり聞こうと思っていたのですが、ハイビジョン用のレンズと、これまでのSDレンズとでは、何が大きく違うんでしょうか?  
矢作さん : HD映像は大画面で見られることが前提になっていますし、横にも長いです。したがって、レンズの中心と周辺の特性の差を極力少なくするように設計しています。ですから、SDレンズとの違いをいうと、解像度はもちろんのこと、明るさの均一化、色にじみの発生の少なさが格段に違うと言ってよいでしょう。レンズのグレードにもよりますけどね。  
卓 : すっきりしました。最後に、今後どんなレンズを作りたいですか?  
加藤さん : 現在の技術ではなかなか実現は難しいですが、夢のレンズは「小型で軽くて、特性が優れていて、それでいて安価なレンズ」ですね。我々はこの夢のレンズに近づくために、非球面技術をさらにブラッシュアップさせていきますし、ガラス以外の夢の材料を探し続けています。そして、技術革新の可能性を見落とさないように、光学技術だけではない、他の技術の応用の可能性を絶えずリサーチしています。これからも、我々の作り出すレンズに期待して下さい。  
正ちゃん カメラはレンズが無ければただの箱です。レンズ設計の皆さん、製造の皆さん、これからもますます高性能なレンズをお願いします。今日は、本当にありがとうございました。
対談が終わり、外に出ると、すでに夜になっていました。
レンズメーカーの皆さん、丸一日お付き合い頂き本当にありがとうございました。
まとめ
今回は、レンズのメンテナンスや、注意すべきことが勉強できたと思います。
レンズに大きなダメージがあると、映像品質が極端に落ちることになりますから、レンズは大切に扱い、そして、間違った使い方をしないことが重要です。
まずは、ご自身のレンズをチェックして、気になることがあったら、メンテナンスしてみましょう。
正ちゃん
次回 レンズメーカーにお邪魔して、工場見学や設計の方々とのお話などを2回に渡ってお届けしました。次回の正ちゃんは、設定編を計画中です。乞うご期待。
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