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正ちゃんの即効!カメラテクニック講座

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正ちゃんレンズメーカーに行く(工場見学編)
正ちゃん 光を撮像素子(CCDやCMOS)に届けるレンズは、映像に大きな影響を与えます。
レンズを正しく理解するために、2回に渡ってレンズを取り上げていきます。
レンズは奥が深く、2回では語りつくせませんが、まずは、レンズが精密機器であることを覚えていただきたいと思います。
タク (XDCAM EXを手にしている卓)
最近のこのクラスのビデオカメラはものすごい性能を持っているし、レンズ交換ができるモデルもあるけど、レンズを交換したらどのくらい画質が変わるのかなぁ?レンズのメンテナンスも良くわからないし、知らないことだらけだ。

レンズ交換可能なPMW-EX3

正ちゃん おっ、今度はレンズのことが知りたくなったみたいだな。よし、2009年最初の勉強はレンズメーカーにお願いして、工場見学や、設計者に直接お話を聞かせてもらうことにしよう。
さぁ、卓行くぞ!!
ということで、今回は卓にビデオカメラのレンズのことをよく知ってもらおうと、正ちゃん達はレンズメーカーにお邪魔して、工場見学や対談を行いました。
まず最初にショールームを見学させて頂きました。
正ちゃん : さぁ、着いたぞ。

出迎えてくれた天野さんと石丸さん

石丸さん : ようこそいらっしゃいました。まずはショールームをご案内します。
卓 : いろんなものが展示されていますね。あ!月衛星探査機の「かぐや」にもここのレンズが使われているみたいですよ!

月衛星探査機「かぐや」でも使用

天野さん : 宇宙空間で使われるレンズは、地上使用とは異なる要素もあり難しい部分もありますが、今無事に高画質の撮影が行われているようです。充分な信頼性は持っていますが、場所が宇宙ですから万が一にでもトラブルが起きないことを願っています。
正ちゃん : 確かに、修理にすぐ行けるところではないから、信頼性は非常に重要ですね。
卓 : これは携帯電話に搭載される小型レンズですね。こんなに小さくても、何枚ものレンズ群で出来ているんですね。

携帯電話用超小型レンズ

天野さん : そうです。ここまで小さく、枚数も少なく軽くするためには非常に高度な非球面技術が必要です。この技術があって初めて、小型で高性能のレンズが作れるようになったと言ってもいいでしょうね。
卓 : XDCAM EXのレンズにもその技術は使われているのですか?
天野さん : もちろんです。しかもかなり特性の高いものが使われていますから、そのような軽量で、全長の短いレンズが作れました。それではショールーム見学はこの辺にして、次は放送業務用のレンズを作っている工場をご覧ください。
工場では、放送業務用レンズの原材料⇒ブロック材(プレス材)⇒研磨工程⇒組み込み工程⇒調整工程と、順を追って見せて頂きました。
卓 : 原材料ってガラスですよね。ガラスの材料って何種類あるんですか?

光学レンズ用のガラス原塊

天野さん : 細かく分類すると何百種類もあります。それぞれに特性が違いますから、設計ではまずこのセレクト・ブレンドから始めます。
卓 : 性能の良いレンズを作る時に、よく使われる材料は何ですか?
天野さん : そうですね。聞いたことがあるかもしれませんが、蛍石です。放送用のカメラレンズには欠かせない材料です。特に、HDレンズは色のにじみを抑えないといけませんからね。
正ちゃん : 卓はあまり聞いたことないかもしれないけど、蛍石の光学特性は本当に魅力的なんだ。ただ、高価な材料でもあるので、結果として非常に優れた性能のレンズは高価格になってしまうんだ。
実際にレンズを研磨する作業工程を見学。ここでは研磨名人小山さんに説明をして頂きました。
小山さん : 実はレンズの研磨方法は45年以上も前から基本的にはまったく変わっていません。ただ、特性を出すための細かな技術革新が日進月歩で進んでいるのもまた事実です。

研磨名人の小山さん



レンズを機械で研磨しています

卓 : ほとんどのレンズは機械研磨が多いと思いますが、小山さんの手で研磨するレンズってどのようなものですか?それと、小山さんは1ミクロン以下がわかる感覚をもたれていると聞いたのですが…
小山さん : 確かに、ほとんどは機械研磨ですね。ただ、特別に依頼のあるスーパーレンズは、機械では最後の仕上げまではできません。どうしても、人間の手の感覚がものをいう世界になってしまいます。ただXDCAM EXのレンズのように、量産するレンズは人間の手の研磨技術の多くを機械化しています。
それと、私の手がどこまでの精度かは私にもわかりませんが、人間の感覚は信じられない能力を秘めているのは確かでしょうね。
最後に、めったに見られない組み立て工程、調整工程を見学。
クリーンルームの中で組み立て・調整の名人新井さんからお話を伺いました。
新井さん : ここでは、レンズの組み立てを行っています。ズームレンズはレンズを前後に動かすので、そのときにピントがずれてはいけません。このため非常に高い機構精度が必要になります。組み立て途中のレンズと完成品のレンズがありますから、それぞれ動かしてみてください。

組み立て・調整名人の新井さん

卓 : うーん。どちらも、スムーズに動きます。僕には違いがわかりません。
新井さん : そうですね。確かに、どちらもスムーズに動きますね。でも、組み立て途中のものはレンズの遊びが必要以上に多いのです。遊びがまったく無いとスムーズに動きませんが、遊びがあり過ぎると、精度をとるのが難しくなります。ズームが動いた場合、レンズ位置が計算値から少しでもずれると、解像度だけでなく、色にじみや他の特性も取れなくなります。ですので、精度と遊びという、相反する条件を満たす必要があるのです。
正ちゃん : ここでも、匠の技術と感覚が必要なんですね。
新井さん : 次に、調整工程に行きましょう。ここでは、光の3原色の光源を使って、レンズの特性出しを行っています。この長い筒状のものはコリメーターといって、光源から出る光を一筋の平行光に変換するものです。これを使って、レンズの色にじみ(色収差)や、解像度(変調度)などの基本的な調整をします。

コリメーター

卓 : 測定結果を見て、調整が必要な場所がすぐにわかるものなんですか?
新井さん : おおよそは見当がつくのですが、レンズの調整可能箇所は数多くあるけれども、ここでも、経験と勘と知識が必要になります。例えると、特性の取れないレンズは差し詰め「患者」で、我々は「外科医」ですかね
正ちゃん この工場には「現代の名工」が2名いて、新井さんはその一人と伺っています。まさに、名医中の名医ですね。他にも「光学機器組み立て技能検定特級」を持たれている方が7名、研磨の小山さんは「黄綬褒章」も授与されていると聞きました。
放送業務用のレンズは、非常に高度な技術の積み重ねであることがわかりました。
本当にためになる工場見学、ありがとうございました。
タク 名人の皆様の仕事に対しての鋭さを非常に感じました。
レンズを見る目が変わった気がします。これからはもっと、大事にレンズを扱います。
今日は本当にありがとうございました。
まとめ
光の通り道である、レンズの制作現場を知ったことで、愛着も生まれたのではないでしょうか。
レンズの使いこなしの基本は「レンズは精密機器」の認識を持つことです。
さて、ご自分のレンズを覗き込んでみましょう。
正ちゃん
次回 今回はショールーム、工場見学のレポートをお届けしました。
次回は、設計の方々と対談して教えて頂いた内容(レンズのメンテナンスの具体的な手法、現場でどうしてもレンズの汚れを取りたい場合の裏技など)をお伝えいたします。
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