商品情報・ストアヘッドホン The Headphones Park 開発者インタビュー PHA-3 開発者インタビュー

Engineer's Interview Headphone Amplifier PHA-3 開発者インタビュー

インタビューはUKからのビデオ会議も交えて行われた。

取材:野村 ケンジ

PHA-1の登場は、あらゆる意味で衝撃的だった。それまでガレージメーカーからのラインナップがメインで、相当マニアックな存在だった高級ポタアン(ポータブルヘッドホンアンプ)を、世界的なヘッドホンメーカーであるソニーがリリースしてきたのである。しかも、iOSデバイスとデジタル接続することでさらなる高音質を推し進め、PCと接続すればどんな場所でもハイレゾ音源が楽しめるという、機能面においても希有なハイスペックさを持ち合わせていたのだ。そういった充実した仕様によって、PHA-1はポタアンとして空前絶後のヒット作となり、高級ポタアンというジャンルを一躍メジャーな存在へ押し上げることとなった。その後、リニアPCM系だけでなくDSDファイルにも対応する上位モデルPHA-2が登場。ウォークマンとのデジタル接続も果たし、ハイレゾ対応ウォークマンの登場とも相まって、ポータブル環境でも手軽にハイレゾ音源が楽しめるようになった。

そして、さらなる上位機種として、ハイエンドモデルのPHA-3がデビューした。DACにESS社製「ES9018」を採用するほか、バランス駆動のヘッドホン出力を用意。ほぼ同時デビューとなったヘッドホン「MDR-Z7」や「MDR-1A」とのバランス接続を実現(機構自体の対応に加えてバランス駆動用のケーブルを用意)するなど、さらに整合性の高いシステムプランを提案している。いっぽうで、外観デザインも大きく変更されており、既存モデルとは方向性の異なったキャラクターを主張している。そう、このPHA-3は、PHA-1、PHA-2で培ったノウハウを発展しつつ、ハイレゾ時代ならではの新たなるポタアン像がプレゼンテーションされているのだ。そんな、新世代ポタアンPHA-3に込められた思いを、音質、デザインの両面からインタビューさせてもらった。まずはPHA-1から開発に携わり、このPHA-3でもメインのエンジニアとして活躍したホームエンタテインメント&サウンド事業本部の西野康司氏に、音質面での特徴を伺ってみる。

ホームエンタテインメント&サウンド事業本部  西野康司氏

ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 西野康司氏

「バランス駆動のヘッドホン出力に関しては、PHA-1の頃から話題に上がっていたんです。ハイレゾ音源を存分に楽しむためには、相当に高いS/N比を実現しなければならず、そのためにはバランス駆動がどうしても必要になってくるはず、と考えていました。そういった思いを初めて実現できたのが、このPHA-3です。」
ハイレゾ再生環境において、ヘッドホンのバランス駆動はひとつのキーテクノロジーになる可能性がある、と西野氏は考えているという。
「ハイレゾ音源を存分に楽しむためには、幅広い再生周波数帯域が必須ですが、同時に良好なSN比やダイナミックレンジの幅広さも重要となってきます。バランス接続は、そういった課題、求められる基礎体力の高さを一気に解決してくれるのです。」

とはいえ、実際PHA-3にバランス駆動ヘッドホン出力を搭載することは、少なからず苦労があったという。
「回路的にバランス駆動であればそれでいい、というわけではないのです。バランス駆動には、電気回路的な設計よりもむしろ電磁気学的な設計を取り入れる必要が出てきます。結果、基板の設計もかなりのノウハウが必要となります。PHA-3では6層基板を採用することにより、バランス回路にベストな設計を行うことができました。たとえば、一番表面の基板ですが、ほぼ全面にわたって切れ目のないパターンが配置されていますが、実はこれ、グラウンド用の配線ではないのです。外部からの電磁的な悪影響を防ぐために、どこにも繋がっていないパターンをあえてデザインし、シールドとして活用しています。同軸ケーブル(中心に通っている信号線が電磁的な影響をシャットアウトするシールドで囲まれている構造をもつ)と同じ考え方といえば分かりやすいでしょうか、PHA-3の基板では信号ラインの安定やLR、正相、逆相の引き回し方に細心の注意を払っています。そのため、アートワーク(回路設計)には普段の3倍ほどの時間がかかりました。また、6層ある基板をほぼ使い切るという、贅沢な作りにもなっています。」

PHA-1

ここまで複雑な回路設計を、ポタアンというスペースの限られた製品で実現するのには、さらなる苦労があったはずだ。 「大変ではありましたが、実はそれほど苦労には感じませんでした。というのもバランス接続の理論から高性能を引き出せることが判っていましたし、特にヘッドホンアンプに要求される“シンプルさと高品質デバイスの融合”がきれいにまとまっていく事が分かっていたため、設計に没頭してしまいました。」
また、同時期にヘッドホンもバランス出力に対応するという、ソニーならではの強みも活かされたという。
「バランス接続ケーブルを用意するMDR-Z7とMDR-1Rの後継モデルであるMDR-1Aの発売が同時期だったため、実際の組み合わせが、想定されるヘッドホンを活用してサウンドチューニングを行えたので、開発はスムーズに進みました。音質的にはわれわれが想定していた以上の完成度に達することができたと思います。バランス設計のベストマッチを突き詰めると、ここまでくるのかと。」いっぽうで、バランス出力用の回路設計は、標準(シングルエンドやアンバランスなどとも呼ばれる)出力にも効果をもたらしてくれているという。

「もともと筐体にグラウンドを頼らない設計をポリシーにしていますが、バランス出力が存分に実力を発揮できるよう、グラウンドのレイアウトも丁寧な設計がなされています。このバランスへの高音質設計の恩恵が従来のアンバランス接続にも大きく寄与して、アンバランスでありながらバランスに近い構成を作り出しています。これはバランスによる恩恵だと思っています。」

PHA-1

PHA-3もう一つの大きな特徴といえば、やはりESS社製のDAC「ES9018」の採用だろう。
「デジタル入力対応ポタアンでは、もっと消費電力が少なく、回路設計的にも負担ないDACを採用しやすのも事実です。例えば同じESS社製のDACでなら「ES9018K2M」や「ES9012」など、2ch DACを使うのが普通です。しかしながら、PHA-3では高級オーディオ機器やハイエンドAVアンプに搭載されている8ch DAC「ES9018」を搭載し、8chパラレル駆動でフル活用しています。初めての導入となるバランスシステムではどうしても妥協の無いDACを使いたかったのです。これによってポータブルとしては望外といえるレベルまで、サウンドクォリティを追求することができました。加えて、USBコントローラーにはジッター除去特性に優れるXMOS製を使用しました。結果として、多くの人に満足いただける上質なサウンドを実現することができたと自負しています。実際、“一度バランスシステムを聴いてしまうと、もうアンバランスには戻れない”という声を何人もの方から聞きました。PHA-3によって実現できたサウンドは、まさにこの言葉に全て込められていると思います。」

Design Centre Europe Senior Designer 森本壮氏

Design Centre Europe Senior Designer 森本壮氏

話は変わって、デザインについてDesign Centre Europe Senior Designer 森本壮さんに話を聞いた。
「PHA-3では、PHA-1、PHA-2という流れを大切にしつつも、新たなる高品質を追求しました。コンセプトは、高機能の凝縮感です。」
実際、PHA-3これまでの2製品とは異なる、全く新しいデザインが与えられている。しかも、メインボディをアルミ無垢材から削り出すという、なかなかに贅沢な作り込みが為されている。

「金属筐体、しかも押し出しで切削加工の筐体をデザインできるなんて滅多にないことなので、自然と気合いが入りました(笑)まず、基本のコンセプトとしたのが、素材を活かしたデザイン、アルミ無垢ならではの存在感と密度をしっかりと形にすることです。わざわざアルミの切削ボディを採用しているのは、単にデザイン上の話ではなく、音質にも関わる部分ですから、そういったこだわりが外見からも分かるよう、様々な工夫を凝らしています。最小の形に機能上必要な形状を削り出していくイメージで形状を決めていきました。

コンセプトを明快にするためにボリュームダイヤルを上下センターに配置できるよう基板側との連携を行ったり、そのボリュームがコントロールしやすくしつつ、カバンの中では無為に動いてしまうことにないよう上下中央部分のカットデザインを何度も検証したりするなど、ディテールにもかなりの作り込みを行っています。ソニー製ハイレゾ製品のアイデンティティのひとつとなっている、真鍮製の3.5mmコネクタをあえて3つ横並びにするなど、ユーザビリティと商品価値の表現にも配慮しました。」アルミの無垢感を強調する意味でもうひとつ、PHA-3には大きな特徴がある。それは、ネジのアタマが見える場所にひとつも表に出ていないことだ。

PHA-1

「これは、アルミ無垢の塊感を強調するために、必要でした。とはいえ、実際には内部の基盤をボディに固定するネジが必要となってきますので、そのあたりは、ガートの下に隠すなどの工夫を凝らしています。とはいえ、その位置にネジが来るよう、基板設計時に緻密なやりとりをさせていただきました。」
いっぽうで、筐体表面の質感を、ヘッドホンMDR-Z7のハウジングと共通化するという、製品を横断した配慮も行われている。
「PHA-3の筐体は、金属感のあるマットラック仕上げとなっていますが、MDR-Z7のハウジング部分も、ベースの素材こそ異なるものの同じ質感を持つ処理で仕上げました。ペアで活用することで、音質的にもデザイン的にも、最良の組み合わせとなる。そんな、幅広い製品をラインアップするソニーならではの統一感というのも、PHA-3に盛り込みました。」

音質、デザイン共に、本格的なハイレゾ時代への対応をアピールするPHA-3。PHA-1、PHA-2から続く“高音質とユーザビリティの融合”というコンセプトをしっかり継承しつつも、「ES9018」DACやバランス回路の搭載によって格段のグレードアップを果たし、フラッグシップと呼ぶにふさわしい製品に仕上がっている。名機の誕生さえ予感させる、魅力あふれる製品だ。

  • The Headphone Park Top
  • Engineer's Interview一覧

商品情報

ポータブルヘッドホンアンプ

PHA-3

バランス出力に対応、
DACにはESS社のES9018を搭載した
ポータブルヘッドホンアンプ

RELATED CONTENTS 関連コンテンツ

  • 月刊 「大人のソニー」
  • ソニーストア
  • Walkman
  • ヘッドホンの歴史
ヘッドホン サイトマップ