商品情報・ストア Feature 特集記事 Hi-Res 10 songs 原 摩利彦Event Report 音楽は時間芸術でありながら、空間芸術音との接し方で、音楽の楽しみ方を広げてほしい
Hi-Res 10 songs 原 摩利彦Event Report 音楽は時間芸術でありながら、空間芸術音との接し方で、音楽の楽しみ方を広げてほしい

ソニーの「いい音」を体感するリアルイベントを開催

音楽とともに生きるプロたちがハイレゾで聴いてほしい名曲を紹介していく連載企画「Hi-Res 10 songs」。これまでも、知る人ぞ知るレコードショップ「CITY COUNTRY CITY」店長・平田立朗さんや、ラジオDJ・稲葉智美さんら、多くの“プロ”にご登場いただきました。

そして今回、「Hi-Res 10 songs」Vol.6に登場した音楽家・原摩利彦さんがソニーストア銀座、大阪、福岡天神の3店舗で、自らが選んだ楽曲の中から、特にハイレゾで体感してほしい楽曲を一緒に試聴したり、音楽家の視点で伝えたい、音の持つ魅力や楽しみ方を語るトークイベントを開催。
ここではイベントに参加できなかった方にもイベントの内容や雰囲気を味わっていただけるよう、ソニーストア福岡天神で行われたイベントの様子をお届けします。

イベント当日は朝早くからソニーストア福岡天神2Fのシアタールームを今回の催しに合わせてセッティング。もちろん、ここには原さんも参加し、来場者にベストなパフォーマンスの音を聴かせられるよう、スピーカーの配置や演台の高さなどを細かく調整していきます。講演中に再生される楽曲の音量もそれぞれきちんと確認し、1曲1曲の音量まで指定するというこだわりよう。最後は、各席で異なる音の聴こえ方を実際に座って確認し、すべてのお客様が満足できるよう最適化。こうして「Hi-Res 10 songs」という音を感じていただくためのイベントのステージが完成しました。

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〜イベントレポート〜 楽曲作りから見えてくる、音の背景や響き。よい音だから感じられる音の立体感を紹介

音楽ファンの熱い視線が集まる中、「福岡に来るのは2年ぶりで……」と笑顔で切り出す原さん(2017年、博多座二月花形歌舞伎「男の花道」に編曲家として参加)。まずは、音楽家、作曲家、サウンドスケープアーティストと、さまざまな肩書きをもつご自身の活動について直近の実績を交えながら紹介していきます。

中でも注目すべきは「サウンドスケープアーティスト」という聞き慣れない肩書きでしょう。これは、カナダの現代音楽家、レーモンド・マリー・シェーファーが提唱した概念で、直訳すれば「音の風景」。狭義には学術的な側面の強い概念なのですが(さまざまな場所の教会の鐘の音の響き、到達範囲を調査し、音の広がりが街の構造などによって変わってくることを確認するなど)、原さんはこれを楽曲作りに応用し、さまざまな舞台や展示会、イベントなどに提供しています。

まずはそうした実績の中から、アルバム『Landscape in Portrait』の収録曲「Circle of Life」と、『Flora』の収録曲「Prelude」を試聴。この楽曲にはメロディーがあり、サウンドスケープアーティストの仕事の中では「作曲家」寄りの作品なのだそう。

「私の作曲のテーマの1つに“音の質感”があります。ザラザラした音とか、丸い音とか、音には言葉で表現できる質感があると思うのです。例えばこの「Prelude」では、レトロな質感を出すために、ピアノの音を古いカセットテープに録音して、その再生音をコンピューターに取り込んで使っています。途中、テープがよれて音がつまずくところがあるのですが、あえてそのまま採用しています」(原さん)

続いて試聴したのは、原さんが2017年にリリースした30分の長尺曲『RADIX』。こちらは、彫刻家・名和晃平さんの展覧会向けに提供された楽曲で、先の2曲とは異なり、メロディーがありません。

「この作品で“主役”となるのは、メロディーではなく、会場や空間、そしてそこで行われるパフォーマンスです。そうした環境を前提に音を作るのがサウンドスケープアーティストの仕事。『RADIX』では、ピアノの残響音や、黒曜石を転がした音などを使って作曲しました」(原さん)

そのほか、芦屋美術館でのインスタレーション、NODA MAP『贋作 桜の森の満開の下』への楽曲(メインテーマなど)提供、世界的ダンサー・振付師であるダミアン・ジャレ最新作「Omphalos(オンファロス)」への参加(坂本龍一との共同作曲)などと言った最新・原摩利彦ワークスを紹介。場所、ジャンルを問わず、幅広い世界で活動する原さんの活躍をご本人の解説付きで再確認することができました。

そして、イベントの中盤では、そうしたサウンドスケープ作品作りに欠かせないテクニックとして「フィールドレコーディング」を紹介。文字通り、野外でさまざまな環境音を録音することなのですが、原さんは、こうして記録した音を加工し、まったく異なる音に作り変えて、不思議な魅力を持った楽曲を生み出しています。

「フィールドレコーディングという概念は今に始まったものではありません。70年代、ソニーの『カセットデンスケ』によって始まった生録ブームをご存じの方もいらっしゃいますよね。実際、私の母親も生まれたばかりの私の泣き声を録音しており、先日、そのテープが見つかって驚きました(笑)。」(原さん)

イベントでは、こうした原さん流の作曲工程を、このイベントのためにフィールドレコーディングでサンプリングし楽曲にした音源を使いながら、丁寧に披露。今回のイベントのためにフィールドレコーディングした環境音を組み合わせて、見事なアンサンブルを作ってくださいました。そのサウンドは、音の響きによって「空間」を感じさせる神秘的なもの。石畳の上を金属の棒のようなものを引きずっているような音や、鳥の群れの鳴き声のような音などが組み合わさり、どのようにして作ったのか想像すらできない不思議な楽曲にしあがっていました。

実はこの曲を構成する音の正体は「ぎんなんをフライパンで炒っている音」「エアコンの室外機の音」「ハーブを素揚げしている音」「原さんの街の近所の音」なんだそうです。もちろん、その音をそのまま使っているのではなく、「ぎんなんをフライパンで炒っている音」のピッチを上げたり、下げたりして、音を抽象化。それらを組み合わせることで、まったく違う幻想的な音に生まれ変わらせています。

「ぎんなんの音などは、ある休日、キッチンから何とも言えない良い音が聞こえてきたのを録音させてもらいました。ハーブの素揚げも、実際の音は一瞬なのですが、ピッチを下げて音を引き延ばしていくと、そこに小鳥がさえずっているような音が隠れていて……そういった発見があるのもフィールドレコーディングの面白さですね」(原さん)

アンサンブルではこうして加工した音を幾重にも重ね、さらにピアノの即興を加えることで、まるで生活感を感じさせないようなサウンドに作り変えています。これには、原さんのこれまでの実績をよく知るファンの皆さんもびっくり。なかなか表に出てこないプロの音作りの秘密が明かされ、会場中が、感心しきりといった様子でした。

「ちなみに今回の録音にはソニーの最新PCMレコーダー『PCM-D10』を使いました。ハンディサイズでどこにでも持って行ける手軽さと、立ち上がりが早く、細かい音を録り漏らさない繊細さが気に入っています。高性能なマイクが搭載されているので、キッチンでの録音時も、スッと手を伸ばして本体を音源に近づけるだけで、きれいに音を録ることができました」(原さん)

イベントの後半では、原さんが「Hi-Res 10 songs」として選出した10曲の中から、とりわけ思い入れの強い2曲を原さん自らピックアップ。

  • J?hann J?hannsson 「フライト・フロム・ザ・シティ」 from 『オルフェ』J?hann J?hannsson 「フライト・フロム・ザ・シティ」 from 『オルフェ』
    moraで試聴する
  • スヴェトラーナ・サヴェンコ(ソプラノ) / Yuri Polubelov(ピアノ)「ヴェーベルン:3つの詩 - No. 1. Vorfruhling」from 『ヴェーベルン: 歌曲全集』スヴェトラーナ・サヴェンコ(ソプラノ) / Yuri Polubelov(ピアノ)「ヴェーベルン:3つの詩 - No. 1. Vorfruhling」from 『ヴェーベルン: 歌曲全集』
    moraで試聴する

ヨハン・ヨハンソンの『フライト・フロム・ザ・シティ』と、ヴェーベルンの『ヴェーベルン: 3つの詩 - No. 1. Vorfruhling』が試聴楽曲に選ばれました。

「『フライト・フロム・ザ・シティ』は何度も同じメロディーが繰り返される、その奥で鳴っている音の移り変わりを、『ヴェーベルン: 3つの詩 - No. 1. Vorfruhling』は、音が消えていくところの深い余韻など教会で録音された音響環境を味わえるハイレゾならではの聴きどころ。音楽は時間芸術でありながら、空間芸術でもあります。このシアタールームのようないい環境でも、席によっては音の聴こえ方が変わってきます。一番良い席で聴いているような音の広がり感を、自分一人で楽しみたいという方にはヘッドホンでの鑑賞もおすすめです。ヘッドホンによって音の聞こえ方がだいぶ違ってくるので、いろいろなヘッドホンを試してみると世界が広がりますよ」(原さん)

試聴後には、参加者から原さんへの質疑応答コーナーも用意。フィールドレコーディング時の記録方式(PCMかDSDか、など)の優劣を問うマニアックな質問から、今、原さんがやりたいことを教えてほしいといったものまで、さまざまな質問が飛び交いました(ちなみに、今、原さんがやりたいのは「オーケストラ」だそうです)。

……気がつけばあっと言う間に終了時刻。世界を舞台に活躍する音楽家・原摩利彦さんだからこその貴重なお話に参加者の皆さんにもご満足いただけたようでした。

そしてイベント終了後は、シアタールーム後方の特設ブースでウォークマンとヘッドホンでの試聴を実施。原さんが『Omphalos』のサウンド制作時に、重低音の響きが気に入り導入したインイヤーモニターヘッドホン『IER-M7』とウォークマン『NW-ZX300G』で、「Hi-Res 10 songs」選出楽曲を楽しむ時間を設けました。原さんのトークを通して得た気付きや、ソニーの最新ハードウェアの高音質によって、それまでとはひと味違った音楽体験を得られたようです。

また、最新ハードウェアの音質に感動し、製品を購入して帰るというお客さまも。ちなみに、原さんも今回のイベント中に店内で試聴を繰り返し、ジョギングなど、運動するときに使うための新しいヘッドホンを注文されていました。

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〜原摩利彦さん イベント後インタビュー〜 「来てくれた皆さんの音楽の聴き方、楽しみ方が広がったのならうれしい」

大阪、銀座、そして福岡天神での3講演、お疲れさまでした。まずは、イベントを終えた率直な感想をお聞かせいただけますか?

原:本当に楽しかったです。ソニーストアのイベントには、一般の音楽ファンだけでなく、玄人度がとても高い方も多くいらっしゃいますので、当初はその空気感にやや圧倒される面もあったのですが、同じ音を聴きながら話し込んでいくうちに、だんだん気持ちが和らいでいきました。

「玄人度が高い」とは?

原:たとえばソニーストア銀座の回は、とてもマニアックでこだわりの強い方が多かったように思います。ためしに「イヤホンを3本以上持っていて、それを使い分けている人はいるか」と聞いたら、半数以上の方がさも当然といったふうにスッと手を上げて……。なんと、10本以上使い分けている方も1人いらっしゃいました。自分なんかよりよっぽど詳しいんじゃないかと緊張しましたね(笑)。

そういった中、心がけたことがありましたら教えてください。

原:ハイレゾ試聴会というと、どうしても音楽の聞き比べになってしまいがちなのですが、今回はより原点に立ち返って、プロの音楽家である私が「音」とどのように接しているかをお話しすることにしました。今回の参加者は、皆さん元より「音」に対して敏感な方々だと思うのですが、そうした方々が、まだ気がついていなかった考え方、スタンスを伝えられたのではないかと思っています。

確かに、皆さん深くうなずき、感心していましたね。中でもフィールドレコーディングのお話は興味深かったです。こういった話はほかのイベントではよくされるんですか?

原:少なくとも、試聴イベントではやりませんね。ただ、音楽を聴くことが好きという方に音作りの工程をお見せすることで、音楽の聴き方、楽しみ方が広がる……かもと考え、やらせていただきました。今回はそうした狙いもあったので、できあがったアンサンブルだけでなく、私が録音した元の音、そしてその間の編集工程などもすべてお見せし、ブラックボックスを作らないようにしています。

原さんはどうして自然の音を楽曲に採り入れているのですか?

原:イベントでもその質問をされましたが、シンセサイザーなどにあらかじめ用意された音と異なり、自然の音にはものすごく複雑な動きがあり、それが楽曲に豊かさを与えてくれるからです。

原さんには、録音している時点で最終的な音の完成型まで見えているんですか?

原:なんとなく、この音は面白いものになるぞという予感はありますが、さすがにすべては分かりません。ただ、そうした予想外のところもフィールドレコーディングの魅力なのだと思っています。

「ハイレゾ」の楽しみについて、原さんはどのように考えていますか?

原:普段は後ろに隠れて聴こえにくい繊細な音に気付けることがハイレゾの大きな魅力の1つでしょう。イベントでも聴いていただいたヨハン・ヨハンソンの『フライト・フロム・ザ・シティ』などはそういった音が用意されているので分かりやすいのですが、クラシック楽曲でも、演奏者の息づかいがより鮮明に聞こえることなどで、リアリティーを強く感じることができます。教会音楽であれば、演奏されている教会の空間性、音の響きなどをハイレゾの方が感じ取れるでしょう。

今後、Featureや、ソニーストアでやってみたいことがありましたら、聞かせてください。

原:いつかフィールドレコーディングのワークショップをやってみたいですね。今回は私が録音した音を持ち込みましたが、逆に皆さんが集めてきたいろいろな音を聴いてみたいです。実は、そうした「耳を澄まそう」的なイベントはすでに存在するんですが、ソニーストアに集うこだわり派の皆さんが参加したらどうなるのかが気になっています。機会があれば、ぜひ!

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〜イベント参加者の声〜
いつもと違う音楽体験が新しい“気づき”を生み出す

銀座、大阪、福岡天神の3店舗合計で、100名以上のお客さまが参加した今回のイベント。原さんのファンの方はもちろん、ハイレゾに興味のあるオーディオ好きの方まで、さまざまな方々にお越しいただきました。ここでは、イベント終了後にご協力いただいたアンケートの中から、いくつかを抜粋してご紹介いたします。

良い意味でソニーらしくない参加型イベントで楽しめました』

『初めて原さんにお逢いし、音楽を聴かせていただきました!! 率直にすごく心に響きました。また機会があればこういったイベントを開催してください

音に関する興味・関心が増しました。またこのようなイベントを期待します』

『原さんの音に対する感じ方、考え方がわかったのが良かった。ひさびさに再生された音楽を体で感じる(いつもは耳だけ)ことができました

『作曲家の方が見る世界(音を通じての世界)のお話が聞けてとても刺激を受けました。1つの音を素材にして、自由に新しい音楽を作れるのが不思議でした』

フィールドレコーディングの話がとてもおもしろかった。映画音楽制作の大変さが聞けたのも良かった。レコーダーを積極的に使ってみようと思った』

『生活の中の普通の音を音楽にするセンスに感激しました』

『自然の音源を活用し、ドラマチックな音に作り変える芸術性がすごい』

『美しく興味深い音をたくさん聴けたのが良かった。音源がフィールドレコーディングで録ったぎんなんを炒った音だったなど、驚かされることも多かった。ぜひ、こうした音をハイレゾで楽しみたい

『原さんが関連した作品に、より傾注できるようになった。ウォークマンの良さにも惚れ直しました

『音に対する気づかいというか、心構えのようなものが聞けて良かったです。やはり良い音の聴ける機械がいるなと思いました』

これまで気になっていたこと、知りたかったことだけでなく、これまで知るよしもなかった新しい音楽の作り方、楽しみ方などについてもたくさんの気付きを与えてくれた今回のイベント。Sony’s feature、ソニーストアでは今後も、さまざまなイベントを計画していますので、次回はぜひ、足を運んでみてください!

PROFILE

原摩利彦(はら まりひこ) 1983年生まれ。大阪府出身。京都大学に在学中に、音楽活動を本格的にはじめる。2012年、アーティストグループ「ダムタイプ」に参加し、高谷史郎によるパフォーマンス作品の音楽を共同制作。2014年、NHK-FMの番組で坂本龍一と即興によるセッションを行う。2017年、毎日放送「情熱大陸」に出演。2018年には、サニーデイ・サービス「さよならプールボーイ feat. MGF」のリミックス、NODA・MAP「贋作 桜の森の満開の下」の舞台音楽、名和晃平「Biomatrix」のサウンドスケープ、ダミアン・ジャレ「Omphalos」の舞台音楽における坂本龍一との共作などを手がける。近年のソロ作品としては、レコード版のみでリリースした『Habit』、アルバム『Landscape in Portrait』など。現在も京都を拠点とし、ピアノを中心とした自身の作品に加え、さまざまなプロジェクトの音楽制作に取り組んでいる。

原摩利彦 オフィシャルサイト
www.marihikohara.com/


イベントで使用した商品はこちら

ウォークマンZXシリーズ

リニアPCMレコーダー

ソニーショールーム・
直営店舗ソニーストアでの展示紹介

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