真鍋大度、ライゾマティクスが示す唯一無二のクリエイティブとは\

Chamber 51
2020.11.13

<創刊3周年 特別号>
真鍋大度、ライゾマティクスが示す唯一無二のクリエイティブとは

Perfumeのライブのテクニカル演出、ビョークとのコラボレーションなど、テクノロジーとアートを融合させたクリエーションで時代の寵児として国内外で活躍を続けるアーティスト、DJである真鍋大度さん。彼が学生時代からの仲間たちと創業し、活動の拠点としているのが株式会社ライゾマティクスです。2020年4月の緊急事態宣言発令前からいち早くオンラインイベント「Staying TOKYO」を開催し、オンラインコミュニケーションツールである「Social Distancing Communication Platform」を発表するなど、コロナ禍におけるエンターテインメントやテクノロジーのあり方に指針を示してきた真鍋さんとライゾマティクスについて、その歩みや信念、そして今後の展望について、お話を伺いました。

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――真鍋さんがライゾマティクスを立ち上げた経緯を教えてください。

「学生時代は音楽を作っていたのですが、『これで食べていくのは難しい、趣味で続けよう』と判断したんです。自分のスキルセットと当時の就職口の多さからSEになることにしました。高速道路の防災システムのカメラや音声映像メディアプレーヤーの遠隔装置の開発をしていました。そうした会社の仕事も面白かったのですが、夜な夜な個人でやっていた音楽ソフトのプログラムの方が楽しくなってきて……そちらをさらに勉強したいと考えてIAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)に入り直しました。当時はあまり難しく考えてはいなかったのですが、会社を辞めて再び学生になるというのは、今となっては勇気ある決断だったと思います。

IAMAS卒業後はしばらく東京藝大で助手と講師をして、そこから工芸大、造形大など大学の仕事をメインに食いつないでいました。卒業から約3年後、29歳くらいの頃になると大学の仕事の傍らフリーランスとして受けていた案件が少しずつ大きくなり、あるタイミングで会社にする必要が出てきたため、学生時代からの仲間たちと株式会社ライゾマティクスを創業するに至りました」

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――ライゾマティクスにおける、真鍋さんの役割とは?

「R&D(Reserch & Development)的な側面が強いと思います。会社を立ち上げたばかりの2000年代後半はほとんどがWeb案件、特にFlashの仕事ばかりでしたが、僕はそうした仕事にはノータッチ。当時の日本にはインタラクティブ案件は数えるほどしかなく、ペースも3ヶ月に1本程度だったのですが、会社のみんなはこの領域ののびしろを信じていたので、そうした形で仕事をさせてもらっていました。もっとも、当時は日本に数人しかプレイヤーもいないしツールも揃っていなかったので現在の相場よりも遥かに報酬は高く、振り返ってみると結構なお金にはなっていましたね(笑)

YouTubeが普及した2010年ごろからはそうしたインタラクティブ案件が激増し、スタッフも増えました。そこから数年を経た2020年現在、結成時のメンバーである齋藤精一は建築、僕は音楽やコンテンツ、石橋素はロボットやハードウェア、千葉秀憲は経営など、みんなそれぞれの得意分野に戻ってくる余裕が出てきました。中でも、齋藤は都市開発や都市設計など社会全体を俯瞰して5〜10年先のビジョンを示すようになってきており、僕は彼のビジョンのエビデンスとなる実証実験を行うのが自らのタスクだと思っています」

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――ライゾマティクスとして、テーマやポリシーはありますか?

「“実践”ですね。『デザインシンキングじゃなくてクリエイティブアクションを起こそう』と社内でもよく話していますし、全体としてそういうモットーがある気がします。僕のR&D的な側面にしても、研究者が論文発表をベースにしているのとは違い、実証実験として現場での実践がゴールにあります。ダンスのプロジェクトなど自主公演を行うのもそのためです」

――真鍋さん個人としては、仕事におけるポリシーはありますか?

「クライアントワークについては、”クライアントの求めるもの”が前提にあります。しかし、自主案件の場合『3年後の未来はこんな風になるんじゃないか』と思ってもらえるような、そのプロジェクトを通してみんなの想像力が湧くようなことをやりたいと考えています。特にテクノロジーの場合、暗い未来を予想させるような使い方はいくらでもできるのですが、新たな技術を使うことで良い未来を想像させるにはアイデアや工夫が必要です」

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■真鍋氏が考える「クリエーション」とは?

――これまで数々のアーティストとともに表現を創出してきたかと思います。これまでの経験、経歴の中で特に印象的なお仕事をお教えください。

「最近だと、2019年に行ったアルカというベネズエラのアーティストとのコラボレーションですね。ニューヨークのThe Shedというアートスペースで滞在制作を1週間して、一切のリハーサルなしでぶっつけ本番のパフォーマンスを4日間行ったのですが、ビョークの飛び入りも含めた5時間に及ぶライブとなりました。瞬発力が要求されるし、突然ステージ上に呼ばれて踊れと言われるし、すごく刺激的な仕事でしたね。もちろん、そうした即興的なパフォーマンスなので、通常のライブと違ってお客さんもどんどん帰ってしまうのですが、The Shedのディレクターが事前にスタッフに対して、アルカのパフォーマンスの必然性やバックグラウンドなどを丁寧にレクチャーしており、お客さんから大きな不満の声が上がることもありませんでした。ニューヨークという街が持つアートを取り巻く環境の素晴らしさも印象的な仕事でしたね」

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――真鍋さんはエンタテインメント分野での仕事も数多いですが、エンタメとアートにおける仕事の仕方の違いはありますか?

「エンタメの場合、僕はコラボ相手のサポート的立場ですし、相手にはファンがいます。ですので、基本は『予想は裏切るけど期待には応える』と考え、ファンが望まないことはやらないようにしています。それに対してアートの場合、予想だけでなく期待も裏切って構わないと考えています。もちろん逆に過剰に期待に応えてしまってもいいと思いますし、あえて中途半端にしたり、謎かけ的に情報量を減らしたりすることもある。エンタメとアートではそうしたオーディエンスに対する姿勢が大きく変わってきます」

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――真鍋さんはクライアントワーク、ご自身のアート、コラボレーションをそれぞれこなされています。それらを横断しているメリットを感じられることはありますか?

「前提として、今の僕の活動は日本だからできている形態だと思います。というのも、ヨーロッパではアーティストはある種神聖な職業なので、クライアントワークをやるアーティストというのは、それだけでよく思われない。しかし一方で僕がやっているような表現は、研究開発、実験的な表現、そして制作資金のためのマネタイズという3つがないと成り立たない。それは株式会社ライゾマティクスを立ち上げた時からの課題でしたが、この流れを動かすためにはやはりクライアントワークは必要なものだとも感じています。

それと同時に、最近はITが社会に与える影響が大きくなったこともあり『誰も見たことのないものをつくってほしい』というクライアントからのリクエストも増えました。僕にとってそれはほぼアートプロジェクトなんです。こんなふうに、クライアントワークやエンタメ分野でのコラボレーションなどでも実験的なことをできるようになったのが、この10年で変わったことなのではないかなと思います」

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■『Social Distancing』の時代にライゾマティクスが担う役割

――新型コロナウイルスの影響で、ライブやコミュニケーションの場の様相が一変しています。この状況は、真鍋さんやライゾマティクスのクリエイティブにどのような影響を与えましたか?

「今は“悪あがきフェーズ”みたいな感じだと捉えています。もちろん『配信で何ができるか?』といったことも考えていますが、最終的にはリアルスペースにお客さんをどうやって安全な状態に戻すのかが課題になると思っています。

具体的には、少し前までは配信に関するツールを作ってリモートでセッションしたり、Webカメラのドライバー開発のためのライブラリを作ったりなどしていましたが、最近ではライゾマの花井(裕也)というエンジニアがまったく新しいアプローチのマスクを作っています。飛沫を飛ばさないため、大声を出さずに内蔵のマイクから歓声や声援を出すことのできるデバイスなのですが、いわゆるマスク型の拡声器とでも言うのでしょうか」

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――マスクにテクノロジーを融合させる、ということでしょうか?

「はい。従来は来場者全員の口元にセンサーとマイクをつけて筋電位と唇の加速のデータを取ることはできませんでしたが、マスクを着けることが当たり前となっている今なら余裕でできるんです。最近ではスマートウォッチがセンサーで脈拍などのデータを取っていますが、あれも腕時計だからできることですよね。今後マスクにセンサーが入ってくるのは必然だと思います」

――マスクがいわゆる“ニューノーマル”の象徴、コロナ禍の中での必須アイテムではあるので、そのお考えに至るのはライゾマティクスらしいと言えますね。

「はい。そんな感じで、会社は現在、リアルスペースに人が戻ったフェーズに焦点を当てています。しかし、もちろん感染者が増えたらまた自宅に籠もらないといけません。そのため、リアルもバーチャルもどちらもできる状態で作品や仕組みを作らなければならないと考えています」

――アフターコロナの世界について伺えればと思うのですが、私たちの生活における価値観や経済的な価値観はどう変化するとお考えでしょうか?

「僕としては、ワクチンができて、新型コロナウイルスが従来のインフルエンザみたいな扱いになれば、何事もなかったかのように元通りになると思っています。言ってみれば断食のようなもので、今はいろんなことを我慢しなくてはならない特殊な状況ですが、我慢しなくてもすむようになればすべて元に戻るはずです」

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――逆にワクチンが開発されても戻らないものはあると思いますか?

「僕はないと考えています。ただ、例えば打ち合わせのために出かけることは本当に必要なのか?など、必ずしも必要ではないとわかったことが淘汰されるという流れは出てくると思いますね」

――最後に、創業期よりもデジタルやアートが重要視されるようになってきた今、ライゾマティクスや真鍋さんはこれからどんな展望をお持ちかお聞かせください。

「正直なところ、今の株式会社ライゾマティクスは“ボーナスステージ”的な場所にいると思っています。本来アートとビジネスは違うところにあるので、クライアントワークで実験的なことができている今は特別な状況だと思っています。ですので今以上に求めるというよりは、今が特別な状況だと認識しつつ、あくまでアートはアートとして自由に実験的なことを行い、クライアントワークに応用出来るものが出てきたら展開するということを続けて行きたいと考えています」

真鍋大度、ライゾマティクスが示す唯一無二のクリエイティブとは\

ビジネスとアートを越境するフルスタック集団、株式会社ライゾマティクス。そのファウンダーのひとりである真鍋さんは、コロナ禍の状況を憂うことなく、終始ポジティブな発想をつまびらかに話してくれました。唯一無二の表現とは、常に模索する姿勢から生まれる。ビジネスとアート双方に精通し、それぞれに応じて創造するからこそ、多方から注目を浴びる存在になったのだと、このインタビューを通して痛感しました。

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真鍋 大度

アーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマ、DJ。Rhizomatiksファウンダー、Rhizomatiks Reserch主宰

東京を拠点に活動するアーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマ、DJ。2006年Rhizomatiks 設立、2015年よりRhizomatiksの中でもR&D的要素の強いプロジェクトを行うRhizomatiks Researchを石橋素氏と共同主宰。身近な現象や素材を異なる目線で捉え直し、組み合わせることで作品を制作。高解像度、高臨場感といったリッチな表現を目指すのでなく、注意深く観察することにより発見できる現象、身体、プログラミング、コンピュータそのものが持つ本質的な面白さや、アナログとデジタル、リアルとバーチャルの関係性、境界線に着目し、デザイン、アート、エンタテインメントの領域で活動している。

Staying TOKYO
https://staying.super-flying.tokyo/

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