次世代モビリティの「現在形」を知る\

RoboCar SUV

Chamber 47
2020.7.13

次世代モビリティの「現在形」を知る
先進のロボティクス技術が人やモノの移動概念を変える

自動運転技術は、自動車に搭載されることがゴールではありません。自動運転による人やモノの移動は、さまざまな分野でこれまでになかった新たな価値を生み出そうとしているのです。乗用車からバス、そして電動車椅子などのモビリティをはじめ、物流や警備などで活用されるロボットまで。そんなさまざまなプラットフォームにおいて自動運転技術を提供している株式会社ZMPの代表取締役社長である谷口恒さんに、自動運転技術の可能性を始めとして、新型コロナウイルスによる社会生活の変化がロボティクスやモビリティの領域に与えた影響まで、お話を伺いました。

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■自動運転技術による新たな社会の創造に向けて

――ZMPでは自動運転技術の活用が、どのような社会を創造していくと考えているのですか。

「自動運転技術の活用が進んでいくと、今より安全で便利な生活が送れるのではないかと考えています。最近では危険な労働や重労働の仕事に若い人が集まらなくなってきていて、人手不足が生まれています。そういった領域こそ自動運転ロボットに任せて、誰もが創造的な仕事にシフトできる提案を進めています。

危険な労働や重労働は労働生産性が低くなる傾向にあります。宅配サービスを例にとっても、倉庫の中で作業される方は台車を1日中何十キロも移動しているようですが、私たちはそういう仕事こそ自動運転ロボットに置き換えて、生産性を上げる必要があると考えています。そうすれば労働者の安全も担保されますし、その分、ほかの業務に人員を割くことで、会社全体、ひいては社会にとって新たな好循環が生まれることをイメージしています」

――物流の分野では、複数のプロダクトと連携してソリューションを導入していますね。

「例えば、物流倉庫では、ZMPの『CarriRo(キャリロ)』という自動運転ロボットが導入されています。従来から物流倉庫では、磁気テープなどで敷かれたレールの上を走る『AGV(無人搬送車)』というロボットがありましたが、これはコースの設定変更が非常に面倒でした。『CarriRo』ならば、走行したいルートにマーカーを張り付けるだけで、簡単にセットアップができます。

実際にそういったソリューションを使うかは、パートナーとなるお客さまのニーズを伺いながら一緒に考えています。ZMPには『CarriRo』以外にも、宅配ロボットの『DeliRo(デリロ)』などさまざまな形態のロボットがあるので、それぞれのプロダクトを連携させて、倉庫の中だけでなく、お客さまの物流全般をトータルに捉えたソリューションを提案していこうと考えています」

――人の移動の分野では、MaaS*にも取り組んでおられますが。

「今年の1月から2月まで、成田空港・羽田空港と東京シティエアターミナルを結ぶ空港リムジンバスと自動運転タクシー、自動運転モビリティを連携させることで、空港から丸の内エリアまでのスムーズな移動を支援するMaaSの実証実験を行いました。空港周辺から都内への乗り入れは交通量が多く、取得できるデータ量も膨大です。交通量が多くなるにつれ自動運転タクシーが遠慮してしまう傾向があることが実証実験で判明したので、そこは少し改善の余地があったかなと思います。

実験では、成田空港・羽田空港から空港リムジンバスに乗って東京シティエアターミナルまで行き、そこで自動運転タクシーに乗り換えて丸の内の拠点に向かいます。丸の内の拠点に到着すると、今度は一人乗り自動運転ロボット『RakuRo(ラクロ)』に乗って丸の内の中心街まで移動して、買い物や食事などを楽しんでもらうというサービスです。

一方で、LCCなどの航空会社の飛行機は搭乗ゲートから遠い場所に着くことがあります。そこで、飛行機が止まった場所から搭乗ゲートまでを自動運転のEVバスで結び、空港内を『RakuRo』で移動してリムジンバスの乗り場に向かうという空港内でのMaaSプロジェクトも進めています」

*MaaS : Mobility as a Serviceの略。ICT を活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を一つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ 新たな「移動」の概念

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■自動運転ロボットの生まれるまで

――人やモノの移動を支援するZMPの自動運転ロボットは、どのようにして生まれたのでしょうか。

「ZMPは2001年に、二足歩行ロボットを開発して販売する会社として誕生しました。その後、2009年のリーマンショックを機に、事業の仕分けを行い、自動運転技術を開発する事業に切り替えたのです。2010年には『Robot of Everything』という構想を打ち出し、自律的な移動を人の移動だけでなく、あらゆる機会に応用していくことを全社員の目標にしました。例えば物流、宅配、介護など、マンパワーを必要とする分野において、ロボット技術を正しく、広く応用することで、より安全かつ便利なソリューションを提供できると考えたんですね。こうして、2014年からは自動車分野だけではなく物流分野でも活躍する自動運転ロボットとして『CarriRo』の開発に着手しました。

屋内移動用の『CarriRo』に対して、2017年には屋外でも移動できる宅配ロボットとして『DeliRo』を開発しました。2019年には人が乗れるロボット『RakuRo』の開発を開始し、さらに今回、2021年に開催が延期されましたが、東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けた取り組みとして、警備ロボットの『PATORO(パトロ)』や無人EV牽引車『CarriRo Tractor』の開発にも取り組みました」

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DeliRo™/RakuRo™/PATORO™

――それらのロボットはどういった用途で、自動運転を使い分けているのでしょうか。

「自動運転システムは用途によって、大きく二つの技術に分かれます。『CarriRo』は荷物を載せて運ぶ台車型のロボットですが、倉庫や工場など屋内で使用します。そこで、安価で確実に自動運転ができるように床にQRコードを貼り付け、ロボットはそのコードを読み取って指示通りに移動します。操作者はタブレットを使って、自由にルート変更が可能です。『RakuRo』や『DeliRo』、『PATORO』は車の自動運転と同じで、あらかじめルートは決められていません。事前に、行動する範囲の地形などを3次元マップで作成し、そのマップ上を自律的に自動運転します。『RakuRo』は低速(時速6キロ以下)で歩道を走行する電動車椅子の扱いになるのですが、私の見立てではそういった領域のモビリティから、人の移動を支援する自動運転技術の普及が進んでいくと考えています。

その背景には、新型コロナウイルスに端を発するソーシャルディスタンスの観点から、以前のように車椅子を人に押してもらうことが難しくなってきたということが挙げられます 。これを機に、高齢者の方々からも他人の力を借りずに一人で移動したいという声が増えており、そうしたニーズに『RakuRo』のような自動運転ロボットが今後求められるようになると考えています」

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――そこから、自動運転の技術も徐々にスピードを上げながら普及していくのですね。

「そうですね。時速6キロの次は20キロ、さらに30キロと、スピードが上がるほどエネルギーが高まって、危険度が上がりますから、徐々にスピードを上げて実証実験を重ねていきます。そして、EVのマイクロバスのように時速20キロくらいから一般的に利用できるようになり、いずれは通常の自動車の速度である時速60キロでの自動運転走行が実現されるでしょう。ドライバーを必要としない完全自動運転車の利用は、そういった段階を経て認められていくのではないかと思います」

■もっと求められる技術を目指す

――新型コロナウイルスの影響で、自動運転技術の活用形態も変わっていくのでしょうか。

「今回の新型コロナウイルスの影響で、ホテルやショッピングモールなどのサービス業や運輸業、公共施設などの業種や業界のお客さまからも、自動運転ロボットの引き合いが増えてきました。例えば、『PATORO』に消毒液を散布する機能を持たせた消毒ロボは、大学から興味を持たれています。大学では、夜間に定期的に消毒を行ったり、昼間でも人がいない場所を消毒していることを学生の親御さんに伝えると、安心されるそうです。人が密集しているところでは、『PATORO』が『ソーシャルディスタンスをとってください』と喋ったりもします。

他にもコロナ禍の影響で動物園に行けなくなった子どもたちのために、遠隔から動物園内を移動する『RakuRo』を操縦してパソコンやスマートフォンなどで動物を見る、オンライン動物園のイベントを千葉市で行いました。このような状況においても自動運転ロボットによって提供できる新しい体験をさまざまな施設に提案しています 」

――そういった施設で今後重要になってくるのが、ロボットのバリアフリーですね。

「介護施設などにロボットを導入してもうまくいかない理由の一つは、今ある施設に無理やりロボットを適応させようとすることです。ロボットが邪魔になるとか、人間がやった方が早いと思うのは、人間のために作られた施設で使おうとするからです。ロボットを導入する施設では、ロボットが移動しやすいように、ロボットに合わせたバリアフリーの環境を取り入れていくべきだと思います。

例えば、最近の病院は通路が広めで、病院によっては患者さんとスタッフが別のエレベーターを使うようになっている施設もあります。そのように、ホテルでもお客さまとロボットで利用する設備を分けるなど、建物を設計する段階から、ロボットの使用を見越した施設をデザインする必要があるでしょう」

――これから自動運転ロボットを普及させていくうえで、重要なポイントはなんでしょうか。

「『RakuRo』にはソニーの車載用のイメージセンサーが搭載されているのですが、オンライン動物園のように自動運転ロボットをアバターロボットとして利用する場合は、さらに高画質なイメージセンサーの搭載が必要になります。その分野での技術の進歩には期待を持っています。イメージセンサーの精度が上がれば、アバターロボット利用者の臨場感や没入感がより高まるでしょう。

また、実際に自動運転ロボットを使っているところはまだ少ないので、私自身が全てのプロダクトのコンセプトを考え、アニメーションなどで活用例を配信しています。具体的な使い方を示せば、お客さま自身が自分たちの用途にあった使い方を考えてくれます。こういった自動運転ロボットのニーズを形にしていく地道なアプローチが今は重要だと考えています」

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2020年1月の自動運転タクシー(写真:株式会社ZMP、日の丸交通株式会社)

すでに身近な場所で活躍している自動運転ロボット。新型コロナウイルスの影響を受けた現代、人の行動範囲も限定され、ライフスタイルの変化が求められているからこそ、ロボットに対する期待や活用の仕方も、いろいろと変わってくるかもしれません。自動車の完全自動運転の実現はもう少し先のようですが、ZMPと同じくソニーでも自動運転向けのイメージング・センシング技術の開発を行うなど、研究は着実に前進しています。まず自動運転化が必要なところから一歩ずつ導入し、社会環境を少しずつ変えていくことが大切だと感じました。

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谷口 恒

株式会社ZMP代表取締役社長

2001年にZMPを創業。家庭向け二足歩行ロボットや音楽ロボット開発・販売を手掛け、2008年から自動車分野へ進出。メーカーや研究機関向けに自律走行車両の提供を行う。現在、RoboCar® Minivan、RoboCar® Mini EV BusなどのRoboCar®シリーズ、物流業界のワークスタイルを変革する台車ロボ「CarriRo®」及び無人フォーク「CarriRo®Fork」、ラストワンマイルのデリバリーを自動化する宅配ロボット「DeliRo™」、高齢者の移動を快適にする自動電動車椅子「RakuRo™」、無人警備・消毒をするロボット「PATORO™」など、様々な分野へのロボット技術の展開"Robot of Everything"戦略を進めている。

動画・写真提供:株式会社ZMP
背景写真:株式会社ZMP、日の丸交通株式会社

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