“いい会議”のつくり方\

Chamber 38
2019.9.13

“いい会議”のつくり方

会議はビジネスパーソンの日常と切っても切り離せない存在。形式的なやりとりに終始しがちな会議を、いかに生産的でクリエイティブな場にできるかは、企業にとっての永遠の課題とも言えます。日本におけるファシリテーション分野の第一人者として、ビジネスや教育などのさまざまな現場でワークショップやファシリテーションの実践・普及に努めてきた、東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 教授の中野民夫さんに、生産的な会議を行う秘訣についてお話を伺いました。

“いい会議”のつくり方\

――「生産的な会議をなかなか行うことができない」と悩んでいる企業も多いかと思います。そういった企業が抱えている問題点とはどのようなものでしょうか。

「まず前提として、話し合いを行うためのそもそもの“場づくり”ができていないことが挙げられます。場づくりのポイントには大きく二つあって、一つ目が“空間の物理的デザイン”です。机や椅子をどのように配置するか、また空調や照明をいかに調整するかなど、話しやすい環境を作るためのセッティングをまず行う必要があります。

5人くらいの少人数で話し合いたいのに、20人用の広い会議室で“ロ”の字に座ってしまうと、お互いの距離感が遠くなってしまいますし、長机に多人数が一列に座ると、横の人たちの様子も見えづらくなってしまう。そうなると出席者の参加意識や相互作用はどうしても希薄になってしまいます。

例えば、テーブルを円卓にするだけでも、出席者どうしの顔が見えるようになって、ガラッと意見が出やすくなったりします」

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――場づくりのもう一つのポイントとはなんでしょうか。

「もう一つは“関係性の心理的デザイン”です。つまり、安全・安心にみんなが意見を出し合える雰囲気をつくること。私がワークショップを行うときには、“チェックイン”という手法をよく取り入れています。

最初に『どのような人たちが、どのような思いでここに集まっているのか』一人ひとり、率直に話してもらうわけです。私が勤めている大学のある教授会のときにも取り入れているのですが、全員がそうやって最初に一言、口を利いているだけで、その場の一員であるという参加意識が芽生えてきます。お互いがどんな人なのか、どんなことを考えているのかが分かると安心感も生まれますし、結果的に忌憚のない意見を交わしやすくなる。安全・安心に意見を出し合える関係性を作っていくためには、このような準備運動がとても大切なのです」

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――生産的な会議を行おうと思ったら、それなりの準備が必要なのですね。

「特に“関係の質”をいかに高めていくか考えることが重要です。『さあ、アイデアを出せ』といきなり言われても、それはやはり難しいですし、参加者が周りの目を意識して腹の探り合いに終始したり、『何か賢いことを言わなければ』と過度に気負ったりしてしまう。

一見、遠回りに見えても、チェックインやアイスブレイクを通じて参加者の“関係の質”を向上させることが、結果的に思考の質もアップさせ、よいアウトプットにもつながっていくのです。成果を求めるならば、このような急がば回れ的な考え方もときに必要です」

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――他に「関係の質」を上げるために有効な手法はありますか。

「例えば、発言を記録する際に、板書などでみんなに共有しながら『見える化」することは有効です。特別なテクニックなどが必要なわけではなく、私の場合はとにかく愚直に板書しています。

板書をするときにも大切なのが、ジャッジや要約はしないということ。なるべくその人の言葉を、一部になるにせよ、そのまま拾って書くようにする。そうすると発言した本人も“受け取られた”感じを抱くので、遠慮なくバンバン意見が言えるような空気が醸成されていく。勝手に要約して書くことで、『ちょっとニュアンスが違うんだよな』と発言者が感じるような事態は、できるだけ避けたいところです」

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――会議の参加者に求められる心構えやマインドセットは何かあるのでしょうか。

「私も長年、広告代理店で働いていた経験があるのですが、企業で働いていると、とにかく人をジャッジすることに慣れてしまう。人の話を聞いているときに反論を考えたり、『俺だったらもっと上手く伝えられるのに』と歯がゆく思ったりしている。それに、ジャッジする人はいかにも賢そうに見えますから。

特に年齢を重ねた人や経験を積んだ人にありがちなのが、下手に先読みができるようになってしまい、『あなたの言いたいのはこういうことだよね』と人の話を勝手に要約してしまうこと。そうすると若い人や下の立場の人たちは、『この人はどうせ自分の話を聞いてくれない』と意見を言わなくなってしまう。

こうした事態を避けるためにも、会議の参加者たちは、いい意味で“保留”の姿勢を持っておくことが大事だと思います。『これが絶対』と自らの意見を押しつけるのではなく、『自分はこう思うんだけど、あなたはどう思う?』と素直に聴こうとする姿勢ですね」

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――場をまとめる進行役やファシリテーターに求められる心構えとはどのようなものでしょうか。

「場を“ホールド”することです。簡単に言うと、その場で起こっていることを最後までしっかり見守ること。話し合いが活発になってきたら一歩引いて見守る。手綱は手放さないけれども、ファシリテーターが結論ありきで強引に場を仕切るのは避けたいですね。

場を取りまとめる人は、ある意味で権力を持っています。そのことに人一倍、敏感でなければいけません。下手をすると、ファシリテーターの一言に参加者が一喜一憂したり、それによってみんなの意見が左右されてしまったりすることもあるので、誰かの発言に『いいですね』と安易にコメントするのも、実は考えものなのです。ファシリテーターは自分が主役になってしまいそうな気配を感じたら、それを身軽にかわし続けなければならない。

これは企業における会議の場合でも同じで、組織内での役職や立場のある人が仕切るのは避けたほうがいい。決定事項の承認を取るための会議や、意思決定をスピーディーに行いたい会議なら話は別ですが、アイデア創出やじっくり話し合うことを目的とした会議では、ファシリテーターや進行役の選定は慎重に行ったほうがいいでしょう」

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――会議の目的によって、使い分けが大事ということですね。

「情報共有を目的とした会議なのか、上司や会議構成員の承認を取るための会議なのか、あるいは参加者同士でしっかり話し合いたい会議なのか。各企業の文化によっても、さまざまな会議体があると思います。それらを組織内できちんと整理して、それによってファシリテーションのやり方も使い分けていく。

社員各人がのびのびと個性を活かして、それぞれの可能性を存分に発揮できる環境を用意する。それがクリエイティブな会社への第一歩だと思います。そこに自分たちでフタをしてしまうのは、本当にもったいないことですからね」

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ともすれば、形式的で非効率なものになりがちな会議を、いかに生産的でクリエイティブな場にしていくか?ヒントになるような示唆に富むお話でした。一見遠回りに見えても、人間同士の関係性を向上させることが、クリエイティブなアイデアの創出にもつながっていくこと。成果や効率性を重視されがちな現代のビジネスパーソンが、心に留めておくべき視点なのかもしれません。

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中野 民夫

東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院・リーダーシップ教育院 教授

1982年、大手広告代理店に入社。在職中のアメリカ留学を機に、多分野でワークショップやファシリテーションの講座を実践してきた、日本におけるファシリテーションの第一人者。2015年より現職。

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