法人のお客様 事例 医療施設にアートを融合させた、癒しの空間「Imaginative Forest」

医療施設にアートを融合させた、癒しの空間「Imaginative Forest」

医療に対してポジティブな感情を生み出すUX体験

当社は、埼玉県川越市にある複合医療施設「MEDICITY(メディシティ)」内の調剤薬局オープンにあたり、調剤待合室のコンセプト提案から空間演出デザイン、システム設計までを手がけました。お客さまが目指す「医療に対してポジティブな気持ちを持っていただけるような空間」を実現するため、待合室という空間を最大限に活用したプロジェクションマッピングに挑戦し、「MEDICITY Imaginative Forest」として空間そのものを“作品”として提案しました。今回のプロジェクト発端から空間演出コンセプト、来局者へのユーザーエクスペリンス(UX)を高めるための工夫やこだわりをご紹介します。

お客さまが求める、これからの医療施設のあるべき姿

当社は、埼玉県を中心に調剤薬局「MEDICITY(メディシティ)」を展開されているイントロン株式会社様からのご依頼で、調剤待合室をプロジェクションマッピングで演出し、癒しの空間をつくるという新たな試みに挑戦しました。その発端となったのは、医療への不安やストレスをアートによって解決するという取り組みを行っている、京都市立芸術大学の辰巳明久教授と吉田貴子デザイン事務所様からのご紹介でした。ソニーの最新テクノロジーとクリエイティブの力で「医療×アート」による新たな空間を実現できないかというご相談を受けたことをきっかけに、本プロジェクトはスタートしました。

調剤薬局の入り口
調剤薬局の待合室

イントロン様がソニーに求めたのは、「健康に不安を持つ患者さまを癒し、ゆったりと過ごせる空間」でした。お客さまは「これからの医療はどうあるべきか」を検討されるなかで、疾患を抱えた方だけでなく、「未病」の方にも気軽に訪れてもらい、医療に対してポジティブな気持ちになってほしい、さらには医療施設が地域コミュニティの役割を果たし、情報発信の場としても活用できることを目指されていました。また、お客さまへのヒアリングを繰り返すなかで、患者さまによっては病院に飾られる名画やクラシック音楽に接するだけで、過去の病気や治療のつらい気持ちを思い出してしまうこともあり、「変化のある映像がほしい」との要望もありました。そこで、同じ映像をループさせるのではなく、訪れるたびに景色が変化し、ずっと眺めていると小さな発見があるなど、癒しの空間でありながら、明るい気持ちになれる空間演出ができないかと検討を重ねました。

人に癒しをもたらす、無限に表情を変化させる「森」

当初は、心理的に落ち着くといわれる「青」を基調にした世界を想定。しかし、病院の手術室などでも青が多用されているとのご指摘もあり、来局者のストレスの要因にもなると考えられました。「落ち着く空間」と「変化の大きいもの」という、相反するテーマを探っていくうちに「森」のモチーフを着想。そこで実際に森へリサーチに行くと、そこには四季折々の変化があり、時間ごとに変わる日差し、動植物との出会いなど、森の中には変化が満ちあふれていることに気づかされました。心癒される場所でありながら変化にも富む、まさに森羅万象を象徴する「森」は今回のテーマにぴったり。さらに薬局のある川越という地域性にも注目し、少しだけ不思議な「武蔵野の森」をイメージした『Imaginative Forest』の世界観が浮かび上がりました。

四季折々の変化を映像で表現
時間ごとに変わる武蔵野の森

空間演出にあたり「一期一会」というコンセプトのもと、常に森が変化しつつ色々な表情を見せる空間を意識。リアルタイムレンダリング技術を用いて、春夏秋冬などの季節、朝昼晩の時間、天候などの変化、時には鹿やフクロウなどの動物が出現するなど、森の移ろいを映像や照明によって表現しました。虫や鳥の鳴き声などの効果音や景色に合わせたBGMも100曲近く用意。センサーを活用して、壁面に近づくと足元の水辺から波紋が出たり、怪しい月光蝶が近くに寄ってきたりなど、訪れるたびに違う景色を作り出し「一期一会」の体験を演出しました。また、実際の森のような奥行き感を演出するため、木を模したボードを壁面に貼り、その上にマッピングすることで本物の木のような立体感が感じられるように工夫するなど、実際の森に降り立ったような没入感と、眺めているだけで心が和む空間で、来局者の気持ちを癒すUX体験に仕上げました。

壁に近づくと足元に広がる波紋
武蔵野の森に現れる蝶々

患者さまへの癒しだけでなく、心地よく働くための環境づくり

オープン後、来局されたお客さまからは、「穏やかで心地いい」「毎回景色が異なるので再訪したくなる」とのコメントをいただきました。また、そこで働く医療従事者の方たちにとっては毎日目にするものなので、森のシーンだけでは飽きてしまいます。そのため30分ごとに、白い滝、波、くらげの浮遊などインスタレーションのような迫力のある映像を差し込み、気持ちをリセットできるように配慮。薬剤師の方たちからも、常に変化があって、BGMも多くのパターンがあるので、「飽きがこない」とのご感想をいただくなど、働く環境としての心地よさも提供できました。

ダイナミックな滝の映像

私たちの活動は、クリエイティブの力で空間の価値を最大限に引き上げることが目的。見る、聞く、触るなどの五感を拡張するソニーの最新技術に、デザインとコンテンツを掛け合わせて新しい価値を創造するビジネスです。お客さまのご要望をお聞きし、抱えている課題や場所に応じて最適なソリューションをご提案する、むしろ体験をつくるようなアート作品に近いと思います。特に現在のコロナ禍という時勢において、多くの方が不安な気持ちを抱えています。こうした医療施設の空間づくりを通じて、患者さまが医療に対してポジティブな気持ちになり、皆さまの健康の一助になれればと思います。

佐藤(プランニングマネージャー/UXクリエーター)

〜感情をコントロールする映像と音を融合させたUX体験〜
今回「変化のある空間演出がほしい」とのご要望をもとに、お客さまへのヒアリングやフィールドリサーチを重ねながら最適なソリューションを模索しました。お客さまの課題や要望によって提案内容が変わるため、お客さまとの会話はとても重要で、来局者にどんな感情を持ってほしいのかを念頭に置きつつ、森をストーリーとした癒しの空間を設計しました。現在、新型コロナウイルスの影響であまり外出できない状況ですが、たとえばパーソナルスペースを癒しの空間にしたり、世界中を自由に旅行するなど、今回の作品を応用することで、都会の病院やクリニックにも活用できそうだと感じました。最近は、音がもたらす心理的効果にも着目し、要望に応じてBGMのプロデュースを手がけていますが、今後さまざまな領域を横断し、映像だけでなく効果音やBGMも含めた心を揺さぶるUX体験を提供していきたいと思います。

古庄(技術担当)

〜空間を生かす柔軟な発想で、新たな体験づくりに挑戦したい〜
私は入社4年目になりますが、これまで大学のアリーナのAVシステム設計・施工をはじめ、4K超短焦点プロジェクターを用いた没入型の映像空間の設計など、文教施設や不動産、化粧品業界まで幅広いプロジェクトを担当してきました。今回、初めて医療施設の空間演出に挑みましたが、限られた空間のなかで最適な機材配置を考えながら、「癒しの体験」を最大限に高められるように工夫を重ねました。特に壁面の造形物とプロジェクターを組み合わせたプロジェクションマッピングは、想像以上の立体感が生まれ、心地よい没入体験を提供できたのではないかと思います。今後も、技術者として柔軟な発想で考えながら、これまでにない空間演出や体験づくりに挑戦していきたいと思います。