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「ROOTS 日本の原景」撮影記 Vol.2
出羽三山の旅

出羽三山は、山形県庄内平野を縁取る月山、湯殿山、羽黒山の総称。古代狩猟採集時代から、山々の自然物には神が宿るとされた自然神信仰の場だった。のちに仏教が伝わり、国家中央の意思が都から遠く離れたこの地にも及ぶと、人々はこれを受け入れ、出羽三山は神と仏を一体の存在とする神仏習合の聖地となった。だが、明治新政府は国の近代化とアイデンティティの確立のため、各地で多様な形で成立していた自然神信仰を統合し、国家神道を国教とした。その結果、自然神と融合していた仏教を分離する(=神仏分離)。出羽三山にもその波は押し寄せ、仏教寺は国家神道への改宗を迫られた。幾つもの寺院が焼かれ、激しい弾圧を受けた。しかし、庶民の山への信仰が消えることはなかった。人々は押し付けられた教義よりも自然神を畏敬する。これは今も日本人が持つ特性だ。

古来ひとびとは、羽黒山で現生の幸せを、月山で死後の極楽浄土を、湯殿山で生まれ変わりを願ってきた。月山や羽黒山の山頂には絶景が広がる。しかし、その本当の秘めたる場所は各山の深い谷、 行者たちが分け入ってきた世界にもある。

開山から1400年余り。山には今も多くの修験者や参拝者が訪れるが、谷に分け入る人は少ない。

今回紹介するレンズは、Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS。この焦点距離のズームでは新しくてもっと明るいFE 24-70mm F2.8 GMがあり圧倒的な描写力を誇るが、旅先では小型軽量のF4を重宝する。写りはさすがのT*、発売されて三年経つがまだまだ現役バリバリである。

月山・羽黒口八合目の夕暮れ

月山は山頂に月読命を祀り、仏教では阿弥陀如来を本地仏とする。また古代から死者との交信場所として信仰されてきた。1日目には、月山スキー場の姥沢駐車場から夜明け前に登り始めた。鬱蒼とした森を抜け谷を登り、森林限界を超えると荒涼とした瓦礫の世界をひたすら真っ直ぐ登る。振り返るといつしか雲の上に出ている。6時間かけて山頂に着き、日が沈むまでそこにいた。二日目は羽黒山口8合目から、今度は東斜面の谷「東補陀落」に向かった。そこでも長い時間を過ごし、8時間後に8合目の駐車場に戻った。写真はその時、ちょうど夕日が沈むマジックアワー。山頂に着いたからといって、そそくさと撮影してさっさと降りて行きたくない。苦労して谷に下りたら、やはりそこで時間を過ごしたい。そうするとだんだん見えてくるものがあるのだ。

α7R II,Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS,ISO200

月山・東補陀落の谷

どこも同じように見える緩やかな尾根の茂みをひたすら通り抜けると、いきなり大風景が目前に広がった。なんども道を失ったが、ついに修験道の聖地「東補陀落」の谷に到達したのだ。反射的に「ああこれは縄文の匂いがする場所だ」と思った。日当たりのいい雑木の斜面と美しい池。桃源郷のような縄文時代の集落を舞台にした映画を撮るなら、こんな場所がいい。しばし見とれて時を忘れる。正面左に見える三角山の左中ほどに見えるのが、御神石とされる巨岩。この写真を撮った場所から絶壁を降りて2時間かかった。山頂は一つしかないが、美しい谷は無数にある。

α7R II,Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS,ISO200

湯殿山大日坊・子安地蔵

湯殿山は古代から再生の地とされ、死後の世界を思わせる月山山頂と対をなす。また明治維新の神仏分離以前は、弘法大師空海ゆかりの密教の聖地として出羽三山でも別格の扱いだった。 また湯殿山周辺には幾つもの仏教寺院があり、庶民の信仰を集めてきた。大日坊本堂祭壇裏にある仏像たちは、都や中央にある美術品のような仏像と違って、土着的な信仰と直接つながる、素朴で、庶民にもわかりやすい姿をしている。刀を飲む下半身が魚の波分不動明王がある。子宝に恵まれるという子安地蔵には小さな人形が山と供えられている。他にも数十体の像が並び、娯楽の少ない山間の庶民を惹きつけてきた。小澤はこんな土着的な仏像が大好きだ。

α7R II,Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS,ISO200

湯殿山神域

湯殿山神域に上がると、今も数多くの参拝者がおとずれている。ここには巨大な御神体があるが、それについては昔から「聞かば語るな、語らば聞くな」と言われ、話してはならないことになっている。神域の撮影許可は頂いたが、御神体の写真はお見せしない方がいいだろう。参拝者はその行った者だけが会える御神体のある神域に入る前に、裸足になり、人型の紙に自分の汚れを移して水に流す。

α7R II,Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS,ISO200

羽黒山五重塔

羽黒山山頂には出羽三山神社があり、冬には入ることができない月山や湯殿山を合わせて三神合祭殿に参拝できる。ふもとの山門から、2446段の石段を登って山頂の祭殿に至る。途中にある国宝、羽黒山五重塔は平安時代の創建とも言うが、現存するものは14世紀に再建された。高さ30m弱で、全く彩色されない素朴な塔である。雪の日には白い地面の反射光で軒下の精密な木組みまでよく見ることができる。雪を待って五日目、ついに初雪が降った。宿の主人も近所の商店の女性も「降りましたね~。よかったですね~。」と言ってくれた。絶対写真を失敗できません。

α7R II,Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS,ISO200

今回の写真はすべて、α7R IIと Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSSの組み合わせで撮った。このような取材では、このレンズのオールマイティさが大変ありがたい。軽量で山歩きでも苦にならず、スナップにも向き、三脚につければ風景でも仏像でも実に精密な描写をしてくれる。FE 24-70mm F2.8 GM は無論名玉だが、このツァイスを手放すわけにはいかない。ただ、前回も書いたがズームレンズは、写真家の姿勢が問われる。楽をするためだけではなく、よりチャンスを増やすために使いたい。画角のアイデアと絵作りの引き出しを増やすことで、ズームレンズが持つ多様な画角を活かし、自分の写真の可能性を引き出していきたい。

では今回はここまで、また次回お会いしましょう。

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