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フォトグラファー
堀内僚太郎
SIDE STORY

α Universe editorial team

ファッション、ポートレイトなど様々なジャンルで活躍するフォトグラファーの堀内僚太郎さん。最近では時計専門のWeb「Gressive」のフォトグラファーとして世界中の時計工房や高級時計を撮影。一方で、ライフワークとして東ヨーロッパに暮らす人々の生活風景や滝の撮影をハイスピードで撮り続けるなど、活発に活動を続けている堀内さんの撮影スタイルに迫る。

そもそも堀内さんがカメラマンになろうと思ったきっかけはなんですか? ぼくはもともと、職人が手で物をつくる作業に惹かれていたんです。それで高校を卒業してから木工職人の見習いになりました。そこでたまたま、完成した家具の記録係を仰せつかったんです。一眼レフを渡され、そのときに生まれて初めて自分でピントを合わせて撮影したわけなのですが、これがすごく楽しくて衝撃的な体験でした。それから「写真」をしっかり学びたいと思い、大阪芸術大学の写真学科に進学しました。最近では、時計づくりの工房で職人の方にカメラを向けていますが、ぼくの根っことつながっているんですね。今、改めて気付きました(笑)。

堀内さんは商業写真の第一線で活躍しながら、ライフワークと位置付けている活動を大切にしています。どんな考えで撮影活動をしているのですか? 商業写真で仕事をしていますが、依頼仕事とは別にライフワークとしての写真があります。商業写真のなかでも、とくに広告写真は多くの人がかかわるのでチームワークが大切です。チームで制作物をつくるプロセスも好きなのですが、一方で個人の表現を突き詰めたいという気持ちもあります。たとえば、広告写真であれば単純に商品を美しく撮るというニーズがあります。ですが、フォルムを写し撮りたい気持ちと同時に、撮影対象物の歴史的背景を深く知って、それを表現したくなる。簡単にいえば、ディティールの描写を優先するかイメージを描くのか。仕事によっては、ぼくがこだわるニュアンスは必要ないときもありますから、その未消化分をライフワークの写真に注いでいるのかもしれません。

ライフワークの写真には、3つの柱(テーマ)があるんですね。 ひとつは、近年まで移動型生活を送っていたロマと呼ばれるマイノリティのポートレートです。ぼく自身、戦前にブラジルに渡った親族がいるという話を子どものときから聞いていて、いつか日系移民を撮りたいと思っていたんです。それは民族のアイデンティティに対する強い興味です。そんな思いを温めたまま、15年くらい前にヨーロッパでロマの人々に会って魅せられました。とりあえず、いまは日系移民の撮影はいったん置いておいて、ルーマニアやハンガリーなど東欧諸国で生活するロマを追っています。まずは彼らが住む集落に行って、コミュニケーションを深めてから家におじゃまする。部屋の中はその人の個性が現れやすいので、いつも興味深く撮影しています。

もうひとつは、福島県南相馬市に暮らしている侍のポートレート。南相馬市は年に一度、約500騎の馬が集まる『相馬野馬追』祭りが行われることで有名です。祭り自体も撮りますが、ぼくが本当に記録したいのは侍の人たちのパーソナリティーと、侍としてのアイデンティティです。ご存知のように、南相馬市は東日本大震災の被害にあいました。震災以降、多くの写真家が被災地を訪れ、その記録を写真に残しています。しかし、ぼくは被災者としての側面に主眼を置いて彼らを撮っているのではなく、現代を生きる侍としての彼らと向き合っています。野馬追の長い歴史の中で震災を含む数々の困難がありましたが、彼らはそれを乗り越えてきている。できれば、ぼくは彼らのその力強さを表現したいと思っています。

ポートレートは、その人らしい場所で撮りたいと考えています。ロマの人々なら、彼らの家で。今のところ侍の写真は布バックを背景にしてストロボで撮影していますが、今後は彼らの日常的な要素が写り込む撮影をしたいんです。甲冑や陣羽織を着た侍を撮る場合、シンプルな背景だとそれが江戸時代なのか現代なのかもわからない。もしかしたらただのコスプレの写真に見えてしまう可能性もあります。彼らにとっての日常的な場所で侍姿の写真が撮れればよいなと思います。 今のところ、この2つのテーマに関してはα7で撮影する機会がまだありません。去年の夏に初めてα7に触れてまだ半年も経っていませんからね(笑)。でも、レンズもボディもコンパクトなα7だったら、被写体を威嚇することなくスムーズに撮れることは間違いありません。相手をなるべく緊張させないというのは、ポートレートを撮影するうえでとても重要です。あと、ロマの撮影などは室内に届くわずかな自然光と部屋の裸電球1個といった光源のケースが多いのですが、α7ならば高感度撮影でも画質のレベルが保たれるので心強い。手ぶれ補正も助かるでしょうね。

ライフワークの3つめのテーマは滝。こちらはすでにα7R IIで撮影したそうですね。 「時間ってなんだろう」という疑問がぼくのなかにずっとあって、そのひとつの答えが時間を止めた滝の流れの表情にあるような気がします。滝の写真というと、スローシャッターで水の流れを糸のように表現するやわらかいイメージの写真が多いのですが、ぼくはハイスピードシャッターで流れを止めて、滝のダイナミックで静謐な姿をとらえたい。滝の流れは一瞬ごとに表情を変えるので、二度と同じ写真は撮れません。

最初の頃は、中判のフィルムカメラで撮影していましたが、納得できるシャッタースピードで撮れないのでデジタル一眼レフに変えました。流れをぴたっと止めるのは、500分の1秒より早く切れないとだめですから。先日、和歌山県の那智の滝で初めてα7R IIで撮影しました。滝の多くは山の中なので、周囲が暗くなるケースがよくあります。でも、α7R IIなら高感度で撮影しても画質のクオリティは保たれるので助かります。後日、実際に写真を大きく引き伸ばしてみて、画質のレベルに本当にびっくりました。1.2m×1.5mの大型サイズでプリントしたのですが、写りはリッチで、諧調がきめ細かく出ていてシャープさが半端ない。他社の一眼レフで撮影したものと比べると一目瞭然でした。

滝はカラーでなく、モノクロで撮影するのはどうしてですか?

カラーで撮影すると、色彩の要素に引っ張られて「風景」としての滝になってしまう。ぼくは「水の形」だけに目を当てていきたいのでモノクロで撮影します。プリントも、モノクロの方がはっきりとクオリティの差が現れますよ。滝の撮影はもちろんのこと、ライフワークの写真では、α7R II主体に切り替えていくつもりです。

アンティークの時計や古い食器など歴史を感じるものの撮影には、アナログカメラが向いているといわれたりしないでしょうか? 中判から大判のクラシックカメラを使って、様々な名レンズを組み合わせて、どんなニュアンスを表現できるのか真剣に追求していた時期もありました。でも現在は、最新のテクノロジーをもったカメラでしっかりと対象に向かうほうが、現代の写真を撮るうえで重要な要素だと思うようになりました。これは昔の写真家も同じだったでしょう。たとえば写真家のハリー・キャラハン(1912-99年)は、カールツアイスがビオゴン21mmを発表するといち早く手に入れ、「この新しいレンズは自分の表現に必要だ」ということを書いていたと思います。

この19世紀のまな板とスプーンの写真は、特別なことは何もしていないんですよ。90mmマクロで、そこにあるものを素直に撮影しただけ。それでも、質感の描写がすごく鮮明で、諧調が気持ちいい作品になっています。

時計の撮影など商業写真の分野でもα7R II積極的に使用していくつもりです。時計の物撮りの場合、「10時8分」の針のバランスがもっとも美しいとされています。もちろん文字盤のデザインによってはこの限りではありませんが、たいていは「10時8分」で撮ります。秒針は27秒から37秒の間で撮ることが多いですね。なぜかというと、6時位置にはカレンダーや文字が入ることが多いので、大事な要素を秒針で隠してしまわないよう、その10秒間の幅でベストな位置を探します。メーカーによっては針止めしている時計を支給してくれますが、多くは動いている時計を渡される。自分は2〜3分前に時刻を合わせて準備して「10時8分」がきたらシャッターを切る。これをせまい商談スペースでやらなければならない。ただ、動いている時計でも合成しやすそうな場合はリュウズを引いて針を止めて撮ってしまいます。 ぼくはいつも、時計の撮影時には黒い服を着て黒い手袋をはめて撮影します。理由はケースの金属部分や風防ガラスに自分が写り込んでしまわないためです。黒であればたとえ部分的に写り込んでしまっても後のレタッチで処理しやすいですから。 時計の撮影で留意しているポイントのひとつは素材感でしょうか。たとえばゴールドやステンレスの光沢感、チタンやヘアラインのマット感など質感の違う素材が複数使われている場合はその違いがわかるように心掛けます。 また、時計撮影で難しい点は風防ガラスへの写り込みです。ガラスに特殊なコーティングが施されていると、レフ板の写り込みがハレーションになってしまい、なかなか逃げきれません。コーティングの中には青いハレーションを引き起こす場合も多く、こうなると大変です(笑)。その場合は文字盤やガラスを別撮りして後で合成します。 それから、時計は撮影前に必ず磨きます。肉眼ではわかりませんが、ルーペで拡大すると指紋やホコリ、小さなゴミが意外と付着しています。事前に細部まで磨いておくことで後のレタッチ作業はとても楽になります。 基本的に、ぼくは一灯、または二灯ライティングにして、乳白のアクリル板で四角いセットを即席でつくります。背景となる部分にはウールペーパーで黒背景を作り、床面にも黒い革を敷く。このセットで左サイドから一灯を当てるんですけど、文字盤と針をきちっと見せるために、手前から白色や銀色のレフ板で起こしてあげます。限られたスペース、限られた時間での撮影では、これがいちばん最速の撮り方だとぼくは思っています。こうした条件下では、α7R IIの機動性は大きな味方になります。写りがとてもシャープなマクロの90mm(FE 90mm F2.8 Macro G OSS)をボディに付けるだけで、ぼくの仕事はだいぶラクになるはずです(笑)。

最後に、堀内さんの撮影時の機能的な装備をお見せいただけますでしょうか。 時計メーカーの工房内やロマのポートレートなど、フットワークの軽さが求められる撮影では、ピークデザイン製のショルダーバッグをよく使っています。バッグのなかには、24-70mmレンズ(Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS)を装着したα7R II、替えのレンズはマクロの90mm、レリーズとコンバーター、予備のバッテリーと記録メディアがすっぽり入ります。仕切り板がけっこう自由に変形するので便利です。

ストラップに付けるキャプチャープロカメラクリップもピークデザイン製。カメラクリップはカメラの2台持ちのときにとても重宝していて、1台を手に持ち、もう1台をカメラクリップにぶら下げています。たとえば、引きの写真から寄りの写真に変えたいとき、90mmマクロの付いたボディをカメラクリップからはずして、持っていた望遠ズームレンズ付きのボディをカメラクリップに取り付ける。この一連の動作をワンタッチ、ツータッチでできる。限られた時間とスペースのなかでの撮影は、フットワークが決め手になりますから、装備についても研究を重ねています。

ほりうち・りょうたろう 1969年東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業。スタジオエビス勤務を経て、1997年よりフリーランスとして活動。 ryotarohoriuchi.com

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