商品情報・ストアヘッドホン The Headphones Park 開発者インタビュー MDR-1R 開発者インタビュー PART1

Engineer's Interview MDR-1Rシリーズ 開発者インタビュー PART1

王道を意味する"1"の称号。
ソニーの新たな顔となるヘッドホンとは。

取材:岩井 喬

半世紀にわたる歴史を持つソニーヘッドホンの系譜。そのなかでも音質、デザイン、装着性の基本的な要素をすべて兼ね備えるモデルはこれまでいくつあっただろうか。そして現在これまでにないほどヘッドホン市場は盛り上がりを見せているが、今改めてその原点に立ち返り、ヘッドホンの本質を追究した新製品、MDR-1シリーズが登場する。シリーズはベーシックなスタンダードモデルMDR-1R、スマートフォンを軸にしたBluetooth環境での手軽な音楽再生を実現するワンタッチ接続(NFC)機能を搭載したワイヤレスヘッドホンMDR-1RBT、先進的なデジタル方式により、騒音低減率約99.7%(当社測定法による)を達成したノイズキャンセリングヘッドホンMDR-1RNCの3モデルから構成されている。流行にとらわれない普遍的なスタイルと時代に則した新たなサウンド、高い技術に裏付けられた安定度の高い装着性を高い次元で融合させたMDR-1Rを基本としてMDR-1RBTやMDR-1RNCも共通のコンセプトで開発されたという。しかしこのMDR-1シリーズはなぜ今1番のナンバーが与えられているだろうか?その裏には開発陣の深く、熱い想いが隠されていた。
まずはこのMDR-1シリーズ開発を統括し、音響設計も担当したソニー ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 V&S事業部PE1部の角田直隆氏にMDRシリーズ開発の背景を伺うことにした。

角田直隆氏

ソニー ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 V&S事業部PE1部 角田直隆氏

「昨年の夏ごろからソニーのヘッドホンでも決定版といえるような顔となるモデルが欲しいという話をしていたんです。その中でデザインチームが先行して取り組んでくれました。デザインも音質も優れていて、これを持っていれば安心できるというモデルを我々も一つ持たないといけないのではないか。さらに音にこだわるマニアにも、音楽そのものにウェイトを置くミュージックラバーの方たちにも満足できる製品作りを目指したプロジェクトですね。」
MDR-1シリーズの核心ともいえるデザインを担当したのがソニー クリエイティブセンター パーソナルオーディオデザインチームの矢代昇吾氏だ。

「欧米ではヘッドバンド型の市場が拡大していまして、その中でもハイエンド機が売れている現状があります。ハイエンド機はメーカーにとってそのポテンシャルの高さを示せる大事なポジションですよね。しかしソニーのヘッドホンはそこまでの強いアイデンティティを発揮しているとは言えず、我々もハイエンド機分野で最高といえるヘッドホン、まさに“ザ・ヘッドホン”といえる王道を目指したのがこのプロジェクトのはじまりです。モデルナンバーも最高の一番という意味でMDR-1シリーズとしました。」
MDRシリーズで“1”のナンバリングがつけられたモデルは30年近く前に登場したライトウェイトなモデルMDR-1と2004年に登場した究極の高解像度ハイエンド機Q010-MDR1くらいである。MDR-1Rの価格帯からいくとトップエンド機ではないものの、「一般的なユーザー、ミュージックラバーに向けた最高の製品という位置付けで“1”のナンバリングがどうしても欲しかった」と角田氏。その開発ではこれまでにない取り組みも行ったという。

MDR-1R 写真

MDR-1R 左:ブラック 右:シルバー

デザインチームが先に市場の先端となるロンドンへ行ってターゲットになる方々や音楽に対する知見の豊かな方々を集めてリサーチを実施していました。そこに音響チームも加わった方が良いのではないかという話になり、我々もロンドン入りしました。その際に気付いたのが音楽シーンの変化と音の特長の変化でした。特に低域の使い方に違いがあり、80から90年代にかけては100Hzにピークがあったものが現在のエレクトロニカなどの音楽では30〜40Hzにピークが来るのです。このベースの音色をきちんと再生できないと音楽そのもののバランスも崩してしまう。これまで手本としてきたMDR-CD900STよりもさらに下の帯域にピークがあるので、音の設計に関してもだいぶ考えを改めなければとそこで気付いたんですね。MDR-1シリーズでは現代の音楽に追随できる再生能力を持たせようと考えていましたから、その対処を見つけるべく我々音響チームは現代の音楽シーンの中心にあるロンドンのスタジオに向かいました。」ロンドンのソニー・ミュージック エンタテインメントの協力により、スタジオのエンジニアや録音に訪れたミュージシャンからも意見を聞き、音のチューニングを実施したそうであるが、そのなかでも注目したのがマスタリングスタジオの音づくりであったそうだ。
「ソニー・ミュージック エンタテインメントに協力を仰いだ際、レコーディングスタジオにするかマスタリングスタジオにするかを聞かれました。レコーディングスタジオは素材録りの現場です。どれだけ鮮度良く失敗ないように取り込むかが重要ですが、マスタリングスタジオは出来上がった素材の最終的なバランスを取る現場。我々が勉強するにはエンドユーザーに近い感覚で音楽を聴いているマスタリングスタジオの音作りが最適と考え、ロンドンのソーホーにあるウィットフィールドマスタリングスタジオ(Whitfield Mastering Studio)へ向かいました。そこで一週間、朝から晩まで現場にいて音づくりやチューニング作業を行いましたが、最後の方はまるで戦争のようでしたね。仕上がってくるとどんどん欲は出ますし、飛行機が出る直前まで調整を行っていましたよ(笑)。現場の皆さんからの要望としては、音と音の間にある“スペース”を再生できなければダメだと繰り返し言われました。従来のモデルでは、クリアな音が手前に聴こえることを重視しましたが、MDR-1シリーズでは頭から音が離れるような独特な定位感が得られると思います。ボーカルの位置はやや遠く感じられるかもしれません。しかしその周囲にあるスペースの再現性は格段に向上しました。つまり音場がはっきりとわかるのです。2013年の音楽シーンにマッチするものを目指しました。」
実際にMDR-1シリーズのサウンドに耳を傾けるとやや前方へボーカルが定位し、音場全体を把握しやすくなったように感じる。さらにスタジオモニター的な音作りとは違った長時間聴いていても疲れない音楽の本質を聴かせてくれるサウンド性を獲得しているようだ。その核心となる音響設計のポイントについても角田氏から伺った。

液晶ポリマーフィルム振動板

液晶ポリマーフィルム振動板

液晶ポリマーフィルム

液晶ポリマーフィルム

「MDR1シリーズのドライバーユニットには液晶ポリマー振動板を採用しています。ヘッドホンは耳からも近く様々な音を正確に再生しなければいけません。液晶ポリマーは内部損失が高く、材料固有の響きを持たないので耳当たりの柔らかい音が特長です。ソニーのヘッドホンが大事にしているボーカルの高い再現性と共に中高域にかけてのクリアさや静けさに貢献しています。またボイスコイル周辺のサブダイヤフラムを強化したHDドライバーとしたことでハイレゾ音源に対応できる80kHzまでの高域再生能力を持たせました。(MDR-1R、MDR-1RBTのみ)さらに低域再生という点ではハウジング上に設けたポート(通気孔)によって低域の過渡特性を改善させるビートレスポンスコントロール(Beat Response Control)を導入しました。振動板の動作を最適化することで30〜40Hzのリズム感も改善され、立ち上がりや立下り特性も向上しています。ベースドラムの立ち上がりの鋭さとともにトーンバーストのようなシンセサイザーの低域がスパッと止まり、リズミカルな低音が出せるようになりました。」
音の先進性と共に、パッと外観を見た瞬間に品性の良さ、プロダクトとしての完成度の高さを実感できる優れたデザインを持つMDR-1Rであるが、続いてプロジェクトを先導する役割を担ったデザインチームのこだわりについても矢代氏に伺ってみよう。

矢代昇吾氏

ソニー クリエイティブセンター パーソナルオーディオデザインチーム デザイナー 矢代昇吾氏

ロンドンでヒアリングを進める中、トレンドリーダーたちにヘッドホンのデザインについて聞いたところ、今現在ユーザーに支持されているものであっても“流行りすぎてしまったものは今さら恥ずかしくて着けることはできない”という意見が大半でした。それを聞いて、ファッションの流行はすぐに廃ってしまうと改めて気付かされましたね。だからこそ我々は、こうした売れ筋モデルを真似るのではなく超えることが求められているわけですが、半世紀もの歴史を持つソニーのヘッドホン作りにおけるノウハウの強みを基にしたデザイン、流行に惑わされない王道といえる本質的なものを持ったヘッドホンを作ろうと決めたわけです。ただ派手でかっこいいというものではなく、技術的要素から導かれたデザインでなくてはならない。しかもそれは今まで見たこともないようなモダンさも持ち合わせなければいけないのです。結果として導き出されたMDR-1Rの重要なポイントは“モダンなハンガー形状”、“オーソドックスなハウジング”、“サイズ感”の三つ。ソニーのヘッドホンはシンプルで音響設計にかなった合理的堅実性を持っているけれど、それだけでは弱いので何かアイコニックな特徴が欲しいと考え、そのポイントをハンガー形状に持ってきました。弧を描きながら手前へケーブルが出てくる優雅な合理性を持たせ、ビートレスポンスコントロール(Beat Response Control)用の音抜き穴も大胆に意匠へ取り込みました。従来、音抜き穴は目立たない場所に設けられていましたが、私自身音響設計として最適化された大事な要素として捉えています。これを“高音質の象徴”として敢えて一番目立つ場所に配置して、ハンガーもその穴を避けるような独特な弧の流れを作りました。二つ目のハウジング形状についてはあえてオーソドックスなものとしました。ドライバー形状をなぞった真円と、耳を効率よく覆い密閉性を高めるオーバル形状。この単純な組み合わせこそが、無駄のない最も本質的なハウジング形状と言えます。モダンなハンガーと伝統を感じられるオーソドックスなハウジングの組み合わせによって、新しさの中にも普遍性を表現したのです。そして最後のサイズ感ですが、ヘッドホンは、高音質を追求すると大きくなってしまいがちです。いくら音が良くてもユーザーが期待するサイズを超えてしまうと手にも取ってもらえません。ロンドンで行った調査の中で20人以上のユーザーにあらゆるサイズのヘッドホンを装着していただきました。その中で装着した際に美しく顔や頭部に納まるベストバランスを見極めたのです。その後機構設計チームとはサイズ感について何度も調整が続きましたが、最終的には音響設計的にもデザイン的にも最適なバランスにまとめあげることができましたね。」

MDR-1R 写真

MDR-1Rはベーシックなブラックとモダンなシルバーの二色のラインナップが用意されているが、ブラックモデルにはBA型ドライバーを投入したXBAシリーズと同じように黒と赤で品位ある高級感漂う世界観を作り出している。さらにシルバーモデルは素材感をストレートに示すというコンセプトがあり、アルミのシルバーと本革を彷彿とさせるブラウンを配したという。こうした音質とデザインに加え、ヘッドホンの大事な要素となる装着性のこだわりについても気になるところである。この装着性については機構設計を統括したソニー ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 V&S事業部 PE1部2課の水野謙次氏に伺ってみた。

水野謙次氏

ソニーホームエンタテインメント&サウンド事業本部 V&S事業部 PE1部2課 水野謙次氏

「今回新たに取り入れた技術の一つがエンフォールディングストラクチャーです。従来イヤーパッドを載せる面は装着時に顔に触れる面と同じ幅でハウジングに取り付けられていたのですが、この場合イヤーパッドが側圧でつぶれると内部の低反撥ウレタン素材の持つ柔らかさのみとなります。今回はイヤーパッドの外周部分のみ(従来比で半分以下)をハウジングへ載せるような構成にしました。こうすると装着時にウレタンが巻き込まれるように内側へ倒れ込むので、同じ材質同じ厚みのイヤーパッドでもより耳を包み込むような装着感が得られるのです。むろん、その分密閉度も上がるので遮音性も高くなります。そしてハンガー部にはインワードアクシスストラクチャーを新たに導入しています。ハウジングの水平軸に対する可動部をより内側に傾けて装着性を高めました。長時間リスニングにこだわっているので、側圧を弱めても転びにくい構造としています。さらにもう一つこだわったのがハンガーやスイベル部のジョイントにシリコンリングを仕込んだサイレントジョイントですね。適度なダンパー効果によって軋んだりカタカタと音が鳴るのを抑えて高級感ある仕上がりとしました。あとは重量感です。リブの幅を細くしたり少しずつ詰めて軽くしました。また金属製のヘッドバンドには穴を開けてたわみやすくさせ、機能性と軽量を追求しています。ヘッドバンドが重いと装着時に頭が振られてアンバランスの要因にもなりますし、できるだけ軽くしたい部位ですね。」

MDR-1R 写真

洗練されたデザインが特徴であるMDR-1Rだが、機構設計とデザインの間でのせめぎあいはあったのだろうか。
「そうですね、ある程度基本となる設計条件があるのですが、最初に貰ったデザインでは結構破たんしていまして、長さが足りないとか装着したときにカッコ良さそうだけど支点の軸サイズがなりたたないとか、そういうことがこのモデルでも起こりました。サイズ感とデザインのこだわっているフォルムやバランスをいかに崩さないようにというところを念頭に置いて設計し直して何回もプロトタイプも作りましたね。その結果、装着時に顔に沿った形状で側頭部との隙間もあまり開かないものにできました。」これにはデザイナーの矢代氏も非常に満足しているといった様子で、「一番美しいだろうと思い描いてデザインしたものより、設計条件を加味して出来上がったプロダクトの方が格段にカッコよくなったことに感動した」と語る。
「改めて本質的なところを抑えた時に初めて説得力が出るんだと思いましたね。だから初めベストと思えたものよりも断然良かった。機能美ということでしょうね。置いたときの状態と装着した時ではヘッドバンドが伸びた場合、形状が崩れることが多いのですが、そこが伸びても崩れないものを最適化してみました。しかも側圧もちょうど良い形です。」装着した自分ではわからないが、街中で使うときにはヘッドホンのフォルムもファッションを左右する大きな問題である。場所を選ばず最高のデザインを持ち歩けるというのも不変性の一つではないだろうか。そういった意味でもMDR1シリーズは“1”の称号が似合うヘッドホンであるといえるだろう。
このMDR1シリーズには同じコンセプトの元、使うシーンに合わせて開発されたワイヤレスモデルとノイズキャンセリングモデルが存在する。続いてこのモデルについて迫ってみたい。

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商品情報

  • ステレオヘッドホン

    MDR-1R

    広帯域HDドライバーユニットが低域から高域まで鮮やかに再現。耳を包み込むような快適な装着感のステレオヘッドホン

  • ワイヤレスステレオヘッドセット

    MDR-1RBT

    NFC搭載でスマートフォンとのペアリングや接続がワンタッチ(*)で完了。広がりのある自然な音質を実現するBluetooth対応ワイヤレスヘッドセット

    ※ ワンタッチ接続(NFC)機能を利用するにはNFC対応スマートフォン、または一部のおサイフケータイ(R)対応のAndroid(TM)スマートフォンが必要です

    ※ 一部のスマートフォンは「NFC簡単接続」アプリをインストールする必要があります

  • ノイズキャンセリングヘッドホン

    MDR-1RNC

    騒音低減率約99.7%(*)の卓越したノイズキャンセリング性能を実現。音質と装着性に優れたデジタルノイズキャンセリングヘッドホン

    ※ 当社測定法による。周囲からの騒音がまったく聞こえなくなるわけではありません

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