2020.10.21
切子作家の小川郁子さんによる「RX100ダイアリー」の後編。きものの装いに合わせる帯留めや、展覧会に出品する作品も仕上がりました。伝統に敬意を払いながらも、定石にとらわれることなく、少しでも前進していきたい。そうした思いのもとにつくられた切子の魅力が、写真や動画に写し出されています。小川さん自身、デジカメを使ううちに、撮りたいと思う機会も増えていったそうです。
DATE_2020.07.31 CAMERA_DSC-RX100M7G
「藍色の瓶は、飲み物を入れたり、お花を生けたりと、自由に使っていただけるもの。水が入ると、また違った表情を楽しめると思います。実際に水を注ぐところも動画で撮ったのですが、ピッチャーとも違うので、どうしても水が垂れやすくて、何度も撮り直しました(笑)。付属のシューティンググリップを三脚として使えるので、こうした動画を撮るには便利ですね。切子を購入されても、箱に入れたままにしていたり、眺めているだけという方が少なくないようですが、毎日のように使っていただけるのが、いちばんうれしいです。きものに合わせる帯留めも完成したので、夏に涼しげな帯と一緒に撮ってみました」
DATE_2020.08.04 CAMERA_DSC-RX100M7G
「2カ月ほど取り掛かっていた、秋の日本伝統工芸展に出品する大きな作品が仕上がったので、いろいろな角度から撮ってみました。1つの切子も、視点を変えてみると、新しい魅力が見つかることがありますね。床面からライトを透過させているのですが、ちょっと不思議な、渦のように見える写真も撮れたり、自分の作品ながら新鮮でした。このときもクリエイティブスタイルを試したのですが、〈クリア〉を選ぶと本当にくっきりと、切子の輝きや透明感を際立たせることができる。また、ホワイトバランスを変えてみても、雰囲気ががらっと変わって。作品の特徴やイメージに合わせて、さまざまな撮り方を試してみたくなりました」
「大学に入ると同時に、江戸切子の教室に通い始めたのですが、そこで教えてくださったのが小林英夫先生でした。大学を卒業してから、なんとか弟子入りをさせてもらって、先生のもとに通い続けました。その修業時代に、先生がよく言われていた『基本に忠実に』、『人と違うことをしなきゃダメだ』といった言葉は、とくに心に残っています。確かな技術がなければ、応用もできない。技術を身につけることで、はじめて自由になれるのだと思います。自分らしさというのも、日々仕事に打ち込むうちに、作品の中に自然に積み上げていければいい。小林先生の考え方や美学は、いまでも私の基礎になっています」
「夜空に浮かんだ月も好きで、雲間から現れたところなどを何度も撮りました。通り道で見つけたセミは、羽化したてだったのか、透き通った緑色の羽がすごくきれいで。じつは、母親まで自分のデジカメで撮り始めて、写真の楽しさに気づいたと。窓にとまったセミを撮っていたんですよ(笑)。アサガオの成長を記録したり、なにげない風景も撮ってみると面白いし、誰かに写真を見せたくなるものですね。自宅と仕事場を行き来するばかりでしたが、デジカメがあることで意識が変わって、毎日撮りたいものが見つかるのが楽しかった。本体がコンパクトだから、私にも気軽に持ち歩くことができました。コロナウイルスの影響で遠出もしにくい状況でしたが、デジカメがあったことで充実していたように思います」
【RX100ダイアリー編集部より】
小川さんがつくった切子のグラスを持ってみると、想像以上にゴツゴツとした触感に驚きました。とくに、美しい弧を描く深い切り込みは、手の中で躍動するようです。刃の角度が90度と鋭いダイヤモンドホイールを使い、厚手のガラスに当てていくことで、その独特の深いカットが生み出されるといいます。心の赴くままに、なにより自分が楽しいと思えることを大切にしていると、小川さんは話してくださいました。数々の写真や動画から、切子の楽しさが確かに伝わってきます。
なお、後編で紹介してくださった作品はその後、第67回日本伝統工芸展にて入選されたと、ご本人からうれしいお知らせをいただきました。
※小川郁子さんには、デジタルカメラ「DSC-RX100M7G」を使って撮影していただきました(インタビュー時の写真は除く)
※本ページに掲載している情報は2020年10月21日時点のものであり、予告なく変更される場合があります
小川郁子(おがわ いくこ) 切子作家。1973年生まれ。東京都出身。上智大学に進学するとともに、江東区の森下文化センターで開かれていた江戸切子教室に通い始め、切子の第一人者である小林英夫に学ぶ機会を得る。卒業後、小林に弟子入りし、9年間の修練を経て2005年に独立。2010年には日本伝統工芸展において日本工芸会奨励賞を受けるなど、数々の受賞歴をもつ。現在も都内で創作を続け、ギャラリーや百貨店などで個展を開催している。2020年10月31日(土)〜11月8日(日)には、六本木の「SAVOIR VIVRE」にて個展が開催される。
Edit by EATer / Photography by Kiyotaka Hatanaka(UM)[interview] / Design by BROWN:DESIGN
料理家 冷水さんが撮る、日々の風景「RX100 ダイアリー」
旬の食材を活かした、やさしい料理がファンの多い冷水希三子さん。定期的に更新している彼女のインスタグラムには、日々の料理が並び、その料理を楽しみにしているフォロワーの方がたくさんいらっしゃいます。そんな冷水さんがRX100M3を使い撮影した、日々の写真を紹介します。