SONY

BE MOVED RX cyber-shot

Photographer's interview 写真家インタビュー

対談 Photographer × 開発者

写真家 福田健太郎

ソニー株式会社 RX100 IVプロジェクトリーダー 皆見利行

普遍的なサイズとデザインに、作り手の熱い思いを感じる(福田)

RX100 IVをいち早く使って撮影された福田さんの写真を鑑賞しながら、開発の考え方や経緯についてプロジェクトリーダーの皆見さんにお話を訊いていきたいと思います。

皆見 2012年にRX100初号機を導入したとき、デザインとサイズに徹底的にこだわって開発したRX100を、スタッフみんなが大好きになりました。これはずっと大切に残していきたいという思いから、初号機が完成した段階ですでに、これだけで終わらせたり、単なる後継機として変化させていくのではなく、それぞれに特徴を持った「RX100ラインアップ」として完成させていきたいと議論をはじめました。後になってお客様からも、このデザインとサイズは本当にいいね、というお話をたくさんいただいて、当時の私たちの直感は間違ってはいなかったとわかりました。このRX100 IVも、これからも続くRX100シリーズのなかの一台であるという考えが根本になっています。

福田 この形と大きさを変えようという話は出なかったわけですね。デザインやサイズは変えずに、それでいてRX100 IIでホットシューが付いたり、RX100 IIIでファインダーがついたりと特徴が出ています。いま4機種を並べたら、外付けフラッシュを付けたい時ならRX100 IIとか、用途に合わせて選ぶのが楽しそうです。

普遍的なサイズとデザインに、作り手の熱い思いを感じる(福田)

皆見 4台目になってもRX100シリーズのコンセプトを変えることはありません。私たちはこのサイズとデザインの普遍性を本当に大切にしていますから、こういう機能を入れたい、画質をこう進化させたいと思えば、このサイズとデザインに入れるためにどうすればいいのかという議論をみんなでやっていきます。サイズを大きくすればその機能や性能も搭載できるという話はしません。

福田 最初からシリーズ化が念頭にあったとは知りませんでした。私は初号機のRX100から使っているのですが、この飽きのこないデザインとサイズが全く変わらないという安心感があります。今のカメラはたいていそうですが、機種が新しくなってあれやこれもガラッと変わってしまうと、けっこう残念な気持ちになるものです。RX100シリーズはこの形だけは変えないという作り手の熱い思いが感じられます。

作例1

RX100シリーズの魅力は何といってもデザインと、このサイズです。今回私は、RX100 IVを持って北アルプスの白馬岳に登って撮影しました。この写真は2932メートルの頂上に近いところで撮ったものです。RX100シリーズは小さいから、歩きながらでもいいなと思ったら即座に撮れます。山歩きれている方は経験されていると思いますが、背負ったザックの中にカメラを入れてしまうと、ほとんど取り出すことはないんですよね。今回私はRX100 IVをザックのストラップにぶら下げて、いいなと思った所でちょっと立ち止まって、サッと撮っていくということを繰り返しました。それができるものこのサイズならではです。

作例2

これは朝です。雲海に八ケ岳や富士山、南アルプスが浮かんでいます。山登りというのはいかに重量を減らすかです。必要最低限の衣類は絶対持っていかなくてはいけないので、カメラは二の次になりがちです。でも、コンパクトながら画質的にも優れているRX100 IVだから、ここまできちんと撮れました。これほど細かいところまで解像してくれると、ほれぼれします。

皆見 レンズ一体型カメラのRXはレンズ設計にもこだわりをもっていますが、さらにイメージセンサーとレンズ性能を最大限に引き出すために製造工程にて一台一台ミクロン単位で調整しています。

イメージセンサーを新開発。お客様のご要望が出発点でした(皆見)

今回の4号機は、特に動画の進化に特徴がありますね。それにはやはりイメージセンサーの進化が必要だったのでしょうか。

皆見利行

皆見 確かに、動画はRX100 IVの際立った特徴です。ただRX100シリーズは静止画の撮影を第一に考えているカメラであり、それはRX100 IVでも同じです。静止画撮影の進化という点でイメージセンサーの技術開発に託したものは何か。それは、初号機を使ったお客様からのご要望が出発点になっています。非常に評判が良かった初号機ですが、お客様やカメラマンの方から、屋外晴天などの明るいシーンで大口径F1.8を活かせるような写真を撮りたいというご意見を複数頂きました。シャッタースピードの制限なく、絞り開放でボケを生かした撮影をしたいというご要望です。それを解決したいと思いました。
 まずRX100 IIIで新開発のレンズに内蔵NDフィルターを搭載して、絞り値にして3段分、1/8の光量まで調整できるようにして、屋外などの光量が多い所でシャッタースピードを遅くしたい、絞り開放で撮影したいなどのご要望に応えることができました。しかし、すべての屋外シーンに対応できたわけではなかったのでRX100 IVでは新しい技術で解決したいと考えました。
 そこで目をつけたのがイメージセンサー、もう一つが電子シャッターです。メカニカルシャッターで1/8000とか1/16000を実現しようとするとカメラのサイズが大きくなってしまいます。では電子シャッターはどうかというと、従来の電子シャッターでは動きの速いものに弱く、動体を撮るとゆがんでしまうという問題があって、そこも妥協するつもりもない。有効約2010万画素のデータを瞬間的に読み出し、処理するにはどうしたよいか。 その当時、ソニーが積層型イメージセンサーを新開発しました。その積層技術を応用すれば超高速で読み出しができるアンチディストーションシャッターを実現できるのではないか、ということでカメラ開発チームとイメージセンサー開発チームとで連携して本格的な検討が始まりました。

福田健太郎

福田 その時点では、確信があったというわけではなくて、可能性はあるというぐらいだったのでしょうか。

皆見 そうですね。超高速に読み出す以外にさらにその読み出したデータを一時保管するためのメモリーも実現しなければならないという課題がありました。それをセンサー内部にDRAM自体も積むという新たな開発も必要でした。ソニーが積層技術を確立したとはいえ、その技術を大型の1.0型センサーへ適用し、さらにDRAMも積むというのは非常に難易度の高い案でしたので。それを見事にイメージセンサー開発チームが実現しました。その他にもさまざま技術課題がありましたが、カメラ開発とイメージセンサー開発チームで協力して乗り越えて、その結果、RX100 IVを完成させることができました。

福田 RX100 IIIの最も早いシャッター速度が1/2000で、RX100 IVでは1/32000と、とんでもない桁になっています。普通のスチルカメラは1/8000秒が最高速度です。その4倍ですから、想像がつかないほどの速さです。

皆見 他社より頭一つ抜きんでた次世代の電子シャッターを開発できたと思います。すべてのユーザーの方に安心して使っていただけるのではないでしょうか。

福田 その実現には、やはりセンサーが一番大きな鍵を握っていたということですか。

皆見 そうですね。このイメージセンサーのおかげでF1.8で撮影できないシーンはないと言っても過言ではないと思います。

作例3

福田 今回1/32000で撮ったのがこのタンポポの写真です。山の上の、これくらい高輝度のシーンで背景をぼかしたいというときに、高速シャッターが必要になってきます。でも一般的なカメラだと、シャッター速度が追いついてくれないので、露出オーバーになってしまう。だから、われわれは無意識に構図を変えてしまうんですね。経験値だと絞り開放ではシャッター速度が追いつかないから絞りはF4とかF5.6にして撮影したり、また、背景を空バックにして抜けを良くしてみようか、というような撮り方をします。シャッター速度を意識して、フレーミングも変わってしまうということです。そういった制約から解放してくれるのがRX100 IVの最大の魅力だと思います。これだけのシャッターが搭載されていると、何も考えなくてもイメージ通りにカメラが撮ってくれる。晴天下で潤沢に光が当っているとF1.8は使えないと身体が覚えてしまっているので、慣れるのが逆に難しいですけどね(笑)。

作例4

福田 それからこの水滴の写真。こちらのほうは「写し止めたい」という意図です。この写真も、絞り値によっては背景と同化してしまう場合もありますが、これは背景がぼけて水滴が浮き上がってくれました。ただ1/32000秒がすごいという数字ありきではなくて、あらゆるものが撮れる世界に皆さんが踏み込めることのすごさですね。